第1話 転生
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の感触を楽しんでいた時、そのお楽しみの部屋に闖入者があった。
こちらに産まれて以来であった事のない姿をした男だった。襟元にアイボリーのスカーフを押しこんだ暗緑色のジャンパー。スカーフと同じ色のスラックスに黒い短靴。そして濃い琥珀色の髪に載せられている白い五綾星を染め抜いた、やはり暗緑色のベレー帽。そう、それはいつも画面の向こうにあって、黒と銀のピチピチした悪趣味軍服とは対照的にシンプルで機能的な自由惑星同盟軍軍服を着た男だった。
俺が銀河英雄伝説の世界に生まれ変わった事を確実に認識したのはそれから数年してようやく同盟公用語を何とか一人で読み書きできるようになってからだ。望外の出来事かもしれない。前の世界で中学生だった頃、図書館で何度も借りて読みなおしていたし、レンタルビデオ屋でほぼ毎週なけなしのお小遣いを使って借りて見ていた。アニメ版の台詞は大抵リフレイン出来る。勿論PCがそれなりの価格に落ち着いてきた頃にはゲームもやり尽くした。もはや銀河英雄伝説は俺の前世において人生に欠くことのできない書籍の一つだった。もちろんそのせいでいろいろ身を持ち崩して、三〇過ぎても結婚できずにいた事はまぁ、どうでもいい事だ。
ただし望外の事態とはいえ、もしかしたら赤ん坊の時に見たあの父親は日常的にコスプレしている男かもしれないし、英語が母体となっている言語だとはわかっていたから恒星を二つ持つ星系と無敵の女性提督がいる世界かもしれない。とにかく母親が目を離している隙をみて、携帯型端末を弄りニュースや画像に手当たり次第アクセスして確証をもった。七三〇年マフィアの面々はアニメに出てきたような姿をしていたし、伝説的な英雄リン=パオ、ユースフ=トパロウルの写真も山ほど出てくる。そして母エレーナ=ボロディンが俺に最初に読み聞かせた話は「長征一万光年」であり、同盟軍士官である父アントン=ボロディンがくれたおもちゃは同盟軍戦艦を模したぬいぐるみだった。
確証をもった後、俺はじっとしていられなかった。カレンダーを確認すれば宇宙暦七六七年。俺は現在三歳だから、三二年後には自由惑星同盟があのいけすかない金髪の孺子に崩壊させられることになる。そして自由惑星同盟は基本的に徴兵制を維持しており、俺は運がいいのか悪いのか再び男に産まれてしまった。しかもよりにもよって「ボロディン」という名前の軍人の家に。
もちろん父親が軍人だからといって軍人を志す必要も義務もない。俺が徴兵年齢に達するのは一五年後。兵役は基本的に二年だからエル・ファシルの戦いが始まる七八八年よりも前に退役して社会復帰できるはずだ。兵役中に戦死さえしなければ。
だが幸か不幸か第二の人生を銀河英雄伝説の、しかも建前であるにせよなんにせよ前世日本と同じ民主主義政体を持つ同盟側に産まれたのだ。心情的にも俺
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