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第七章
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第七章

 戸惑いながらもだ。こう言うしかなかった。
「実は」
「そのお弁当は」
「食べて」
 引くことはできなくなってしまっていた。そうなればだ。
 前に出るしかない。実際に碧は前に出た。
 弁当を彼の前に出してだ。こういったのである。その彼女を廊下の陰から見ながらだ。美幸は優しい笑みを浮かべているのだった。
 碧はそれから拓也に毎日弁当を届けるようになった。二人は自然と一緒にいることが多くなった。そんな彼女に対してである。
 美幸は研究室でだ。彼女に言うのだった。
「いい感じみたいですね」
「ええ。とてもね」
 碧も微笑んでだ。美幸に話すのだった。
「いい感じになってるわ」
「ですよね。そんな雰囲気ですから」
「ただ。何であの時背中を押したの?」
 碧は研究室の中央に置いている長方形の白いプラスチックのテーブルに座ってそこで本を読みながら美幸に対して尋ねた。読んでいる本は英文のだ。機械工学の本だった。
「どうしてそうしたの?」
「教授あの時戸惑ってましたよね」
 美幸は彼女の向かい側に座ってまた論文を書いている。そうしながらの返事だった。
「どうしても出て行けなくて」
「そうだったけれど」
「だから。そうしたんです」
「無理にでも前になのね」
「出てもらったんですよ」
「ちょっと。本当にあの時はね」
 碧はそのことを思い出しながらだ。困った顔になって言うのだった。
「足が動けなくなって」
「教授ってまさか」
「小さいのが気になってたのよ」
 つまりだ。コンプレックスだというのだ。 
 それでだ。彼女は言うのだった。
「だからどうしてもね」
「博士に言えなかったんですね」
「そうだったの。それでなの」
「それでなんですか」
「けれど貴女が背中を押してくれたら」
 どうだったか。結果はもう出ていた。
「こうしてね。今に至るからね」
「ですよね。そんなものなんですよ」
「そんなものって?」
「コンプレックスは誰にもあるものですけれど」
 それを話してからの言葉だった。
「そういうのって案外は」
「ああして。簡単になのね」
「ものの弾みでどうにかなっちゃうものだと思いますよ」
「そうなのね」
「私だってそうですし」
 美幸もだ。そうだというのである。
「私も実はですね」
「実はって?」
「足が大きいのが悩みだったんですよ」
 それがだというのだ。
「そういうのわかりませんよね」
「そうだったの」
「けれど。今付き合ってる彼氏にそのことを話したらそれで?って言われて」
「それで終わりだったのね」
「そうなんです。それでどうでもよくなりました」
 そうだとだ。美幸は自分のコンプレックスだったことを笑いながら話した。本当に何でもないといった感じでだ。
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