第三章
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第三章
「貴女は先に帰っていいから」
「いえ、私も残ります」
「いいの?」
「だって助手ですから」
だからだとだ。美幸は微笑んで碧に話すのだった。
「そうさせてもらいますね」
「有り難う。それじゃあね」
「はい、書きましょう」
「ただそれと一緒に」
碧はここでだ。美幸に対してこんなことも言った。
「貴女も論文書かないといけないわよね」
「ええ、ですけれど」
「私も手伝うから」
笑顔でだ。美幸に言う碧だった。
「そうするわね」
「いえ、そんな」
「いいのよ。教授は助手に助けてもらうだけじゃないのよ」
「違うんですか」
「教授も助手を助けるものじゃない」
そういうものだとだ。碧は話すのである。
「教授は師匠で助手は弟子よね」
「そうですね。まさにそれですよね」
「師匠は弟子を助けて成長させるものだから」
「それでなんですか」
「そう。だからね」
それでだとだ。美幸を助けるというのだ。
こうして二人はお互いの論文を助け合いながら書いていくのだった。二人は実に仲のいい師弟関係であった。しかしそんな日々の中でだ。
碧はだ。ある日のことだ。医学部の校舎に美幸を連れて行っただ。そこでだ。
背の高い爽やかな青年を見てだ。動きを止めたのだ。
彼は茶色の髪を襟のどころを短く刈りだ。上だけ伸ばしている。結構癖のある髪だ。
太く黒い眉は短めで一直線だ。海苔を思わせる。
すらりとした身体に白く細い顔である。目は爽やかで鼻も細く高くだ。中性的な面持ちをしている。
白衣のその彼を見てだ。碧はだ。
立ち止まってしまったのだ。その彼女を見て美幸は声をかけた。
「あの、教授」
「何?」
「どうされたんですか、急に」
その立ち止まった碧への言葉だ。
「立ち止まられて」
「別に何も」
「ないですか?」
「ええ、別に」
こうだ。立ち止まったまま答える彼女だった。
「ないけれど。ただ」
「はい。ただ?」
「何時見ても背が高いわね」
その白衣の彼を見てだ。今校舎の、学校のそれそのままのだ。ビニールの廊下にコンクリートの壁と蛍光灯のある天井の先が長く続いている空間にいてだ。碧は言うのだった。
「医学部の大杉博士は」
「大杉拓也博士ですね」
「ええ」
その名前に頷く碧だった。顔が少し見惚れている感じだ。
「本当にね」
「そうですね。私とは三十センチ近く離れてますね」
「そこまで離れてるかしら」
「離れてますよ」
美幸は困った顔で話す。
「私一六〇なんですけれど」
「博士はどれ位かしら」
「一八七位ですね」
それ位だというのだ。
「学生時代はバスケ部でしたね」
「そうね。八条中学から高校までホープだったわ」
尚この二人も八条学園出身である。
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