第十三章 聖国の世界扉
第三話 甲板の上で
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に再度映した。
「美しいですね」
「あ、ああ……?」
「……本当に、綺麗です」
揶揄われたのか? と若干の戸惑いを残しつつも、士郎はセイバーの柔らかな髪の感触を胸元に感じながらも頷く。その時、下がった視線が前髪越しにセイバーの顔をとらえ。
―――っ。
泣いている―――そう、一瞬士郎は思った。
薄い唇で緩やかな弧を描き、細めた瞳で遠い星空の彼方を見上げるセイバーが、酷く、弱々しく、儚げに見えて。
まるで……星明かりで出来た、刹那の幻想のように……。
「シロウ?」
だからだろうか、無意識の内、士郎は両手でセイバーの身体を抱きしめていた。
花に似た甘い香り。
柔らかく華奢な身体の感触。
冷えた身体の奥に感じる―――生命の熱。
幻などではない。
「どうかしましたか?」
突然抱きしめられ一瞬驚きを見せたセイバーだったが、直ぐに回された手に自分の手を添えると士郎を見上げ、優しい笑みを向けてきた。
昔に比べ、随分と柔らかくなった笑みを見た士郎は、胸の奥に湧き上がってきた黒いざわついた衝動が消えていくのを感じ、セイバーを抱きしめる手の力を弱めた。だが、直ぐに自分のやった事を思い返し、何をやっているんだと焦ってしまう。
「……いや、その……寒いかと、思ってな」
セイバーの問いに、つい咄嗟に誤魔化しの声を上げる士郎。
直ぐに『何が寒いかと思ってだ』と思い怒られるかと身を固くするが、返ってきたのは、
「ええ、そうですね。ここは確かに」
小さな声と、若干増えた胸に感じるセイバーの重さだった。
夜空を見上げていた瞳を閉じ、体重を士郎に完全に預けるセイバーは、眠っているようにも見える。しかし、士郎の腕に添えた手が時折撫でるように動く事が、彼女が起きていることを示していた。
チリッ、と胸の奥、鋭い痛みが走り。
夜風で冷え切った身体の奥に―――炎が灯った。
「とても―――冷えますね」
自然と、二人の身体が近付き始める。
月明かりに浮かぶ二つの影は、次第に近付き。
その時、一つの大きな雲が月を隠してしまい、船の甲板が闇に沈む。
数秒の後、風が吹き雲が動き、姿を現した月が空を行く船を照らし出し。
甲板に、一つの影を浮かび上がらせた。
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