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剣の丘に花は咲く 
第十三章 聖国の世界扉
第三話 甲板の上で
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入った紙袋を受け取ると、その場で食べ始めた。
 一枚一枚紙袋からクッキーを取り出し口に入れ、もぐもぐと咀嚼しセイバーはあっと言う間にクッキーを食べきってしまう。空になった紙袋をセイバーから受け取った士郎は、丸めて懐に戻すと小さく安堵の溜め息を吐いた。視線を隣に向けると、飲み物がなかったため口の中にクッキーがくっついてしまったのか、口に手を当てながらセイバーが微妙に顔を顰めていた。
 もごもごと口を動かしているセイバーが何となく小動物みたいで可愛らしかったのでじっと見つめていると、視線を感じ取ったのかセイバーが慌てて顔を上げ。士郎と視線が合うと、セイバーは火の出る勢いで顔を真っ赤に染め上げると、残像が残る勢いで顔を士郎から逸らした。

「てぃ、ティファニアの件ですが、そ、その、か、解決したとは言えませんが、心に溜まった毒は抜けたと、お、思います」
「根本的な解決は全然だがな」

 明らかに動揺している声を指摘することはない。
 指摘すればどうなるか分かっているのに、わざわざ自ら虎―――獅子の尾を踏むような真似はしない。
 そういった真似が出来たのは若い頃までだ。

「え、ええ。ですがそれも心配はいらないでしょう。相談相手も出来たようですし……それに、ティファニアはああ見えて強いですから」
「ほお、名高き騎士王にそう言わせるとは大物だなティファニアは」
「彼女は強いですよ。シロウが考えている以上に」
「女性がすべからず強いことは身に染みて理解しているよ」
「……苦労したようですね」
「まあ、な」

 話している内に落ち着いてきたのか、段々と何時もの様子に戻っていくセイバー。と、不意にセイバーが“オストラント号”の羽根に付いたプロペラに視線を向けた。

「そう言えば……この世界の空を飛ぶ船に乗るのは二度目ですが、この船は以前乗った船と比べて随分と速いですね」
「まあ、この船は特別製だからな。多分この世界で一番早い船だぞ」

 突然の話題の変化。
 勿論そこを指摘するような真似はしない。
 顔を背けたまま話し掛けてくるセイバーは一見落ち着いたかのように見える。しかし、金色の髪が彩る白い首筋はまだ微かに赤く色付いる事を士郎は見抜いていた。だが、士郎はそれも指摘することなく会話を続ける。余計な一言は寿命を縮めると言う事は、身をもって体験し尽くしているからだ。

「コルベールと言う魔術師(メイガス)が造ったと聞きましたが……特別製とは?」
「あの人は本当に凄い人でな。初歩的なものだが、独力で水蒸気機関を作り上げてる。その水蒸気機関をこの船の推進機関にしているから、風力頼りの他の船とは比べものにならない程の速度が出ているんだ」
「魔術師が発明ですか?」
「驚いたか」

 目を見開き驚きを顕にしながら後ろを振り
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