第十三章 聖国の世界扉
第三話 甲板の上で
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ファニアは、一歩前に出て舷側に近づくと、舷縁に手を置き空を見上げた。
士郎は隣のティファニアに顔を向けることはなく、同じように夜空を見上げているまま。
「ただ少し……随分遠い所まで来たなと……そう思っただけです」
「テファは、森に帰りたいのか?」
「……分かりません」
「なら、森を出たことを後悔しているのか?」
「…………分かりません」
ティファニアの声は、震えていた。
震える声が宵闇の中に消えてしまうと、続く言葉は現れることはなく。二人の耳には、船が風を切る音に混じり、シュシュシュと微かに水蒸気機関が動く独特の音が聞こえるだけ。
暖かったはずのカップの熱が失われ、氷が入ったかのように硬く冷たくなってき始めた時、風音に消えてしまいそうなか細く震えた声が士郎の耳に届いた。
「―――分からないんです……何をしたいのかも、どうしたいのかも……何もかも……自分のことなのに……どうして、でしょう。森の中にいた時は、あんなに外の世界に憧れていたのに……その気持ちが………どうしてでしょう、思い、出せません」
こてん、と頭を横に倒してティファニアが士郎に顔を向ける。
困ったような、照れたような顔をしながら、ティファニアは……泣いていた。
朧に揺れる瞳からスッ、と頬を伝い流れる銀の線。目尻から流れた涙は細い顎先で透明な雫に戻ると、そのまま身体から離れ落ちていき、暗い雲の中へと消えていった。
幻のような涙。
まるで、月光の下、踊る妖精の羽から舞い落ちる妖精の粉のように美しい涙。
そんな今にも月明かりに溶けて消えてしまいそうなほど儚く美しいティファニアの姿を見た士郎は―――。
「まったく、お前という奴は」
無造作に伸ばした手で妖精の羽根のように美しい金髪を乱暴にかき混ぜた。
「っあう、ん、え、えと」
士郎の手が離れると、ティファニアは真っ赤に染まった顔で少し乱れた自身の髪に手を置き、士郎を戸惑った目で見上げた。
お盆の上に戻していた自分のカップを再び手に取った士郎は、上目遣いで見上げてくるティファニアに肩を竦めて見せると、カップに入っていた残りを一気に飲み干した。
「生真面目というか、何と言うか……考えすぎなんだお前は。まだ森から出て一ヶ月も経っていないだろ。答えを求めるにしても出すとしても早すぎる。今はまだ何も考えず、外の世界を楽しんでおけばいい」
「で、でも―――ぁ」
空になったカップをお盆の上に置きながら気楽な声を上げる士郎に、少しむくれたティファニアが反論の声を上げようとしたが、またも頭に乗せられた熱く硬い……しかし、心地良い感触に、続く言葉が喉の奥へと滑り落ちてしまう。
押し黙ってしまったティファニアの頭を撫でながら、士郎はふっ、と困ったような調子で鼻
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