第十三章 聖国の世界扉
第三話 甲板の上で
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こと、辛いこと、苦しいことも……そして、楽しいこと、嬉しいことも。
アルビオンの森の中にいた頃、一人想像に耽っていた世界に自分はいる。
なのに……時折不安に駆られる。
―――わたしが望んでいたのは、本当にコレだったの? と。
未だ慣れない環境に、弱った心がつい漏らしてしまったただの戯言。
きっと、まともに考える暇もなく流されるままにいたから、ほっと一息ついた時に何とはなしに出てしまった言葉。
誰に尋ねるでもなく口から出てしまった疑問。
応える者などいない―――その筈なのに。
「―――ん? 世界を見たいからじゃなかったのか?」
「え?」
返事があった。
有るはずのない返答に慌てて振り返ったティファニアの前には、
「甲板は寒いだろ。暖かい飲み物でもどうだ? 茶菓子にクッキーもあるが、皆には内緒だぞ……特にセイバーにはな」
両手でお盆を持った士郎が立っていた。士郎の持つお盆の上には、暖かな湯気をくゆらせるカップとクッキーが乗ったお皿が見える。お盆からカップを一つ取り上げると、士郎は驚きすぎて呆然と立ち尽くしているだけのティファニアに差し出した。
「シロウ、さん?」
「何だ?」
反射的に向けられたカップを受け取ったティファニアは、手に広がる温かさにこれが幻でも何でもないことを理解すると、お盆から自分の分カップを取り上げていた士郎に話しかけた。
「え、あ、そ、その、い、何時からそこに……」
「丁度今だ。寝る前に星でも見ようかと思ったら先客がいたんで一旦戻ったんだが、時間を置いてまた来てみるとまだいたんでな。悪いとは思ったんだが、少しばかり便乗させてもらおうと思って……この通り手土産も持ってきたから許してくれないか」
お盆を軽く持ち上げて見せた士郎は、ティファニアの隣に立つと舷側に背を向け腰掛けるように寄りかかった。
「あ、す、すみません」
「どうしてテファが謝るんだ」
口の端を軽く曲げて笑った士郎は、そのまま顔を上に向ける。こぼれ落ちてきそうな程の無数の光が空を満たす光景に、思わず感嘆の声が士郎の口から漏れた。
「凄い星空だな……空を飛んでいるからか、何時もよりも星の光を強く感じる。何時までも見ていたくなるような光景だが……別にテファはこれに見惚れていたという理由ではないんだろ」
「……」
「どうしたんだ?」
「……」
士郎の問いに、ティファニアは応えず、カップを両手で握り締め視線を下に向けると押し黙ってしまう。
二人の間に沈黙が落ちる。
カップが人肌よりも冷たくなってきた頃、ティファニアがポツリと言葉を零した。囁くような、小さな声で。
「……何でもありません」
首を小さく横に振ったティ
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