第十三章 聖国の世界扉
第三話 甲板の上で
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「コルベール先生。今回の件、本当にありがとうございました」
「いえいえシロウくん。こちらも飛行テストが出来たので願ったり叶ったりですので、そう畏まらなくてもいいですよ」
「そう言っていただけると助かります」
開け放たれた甲板へ繋がるドアから吹き寄せる強い風に押されるように、深々とコルベールに向かって下げていた頭を上げると、士郎の視界にドアの隙間から漏れる茜色に染まった光と共に入り込んだ冷え切った風が頬を撫でた。日が沈み始めた地上から遥か遠い雲の上、空を行く船に吹き付ける風は驚く程冷たい。思わず目を閉じた士郎の耳に、ドアの向こう―――甲板から歓声が聞こえた。
『よおおおぉぉしっ! この命令を完璧にこなし、汚名に塗れた我らの名誉を回復させるぞおおおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!』
…………………………。
「……まだ騒いでいるのかあの馬鹿達は……」
「はっはっはっ。ま、彼らにとってはまたとない名誉挽回の好機だからね。気合が入るのは仕方のないことだよ。それに女王陛下からの直接の指令だ。万が一にも失敗は許されないからね。その不安を紛らわしているのかもしれないよ」
「それは分かりますが……あいつらはただこれに乗じて騒いでいるだけだと思いますよ」
「はは、確かにそれも否定は出来ないね。で、シロウくんはどうするつもりだい?」
面白がるように笑みが浮かんだ視線を向けてくるコルベールに、士郎は大げさに肩を竦めて見せる。
「もう日が暮れますしね。これ以上騒いでいるようなら、風邪を引く前に船室に引っ張り込んでおきますよ」
「……手加減を忘れないようにね」
苦笑を浮かべ船の奥へと歩いていくコルベールの背を見送った士郎は、頬を一掻きすると甲板へと足を向けた。
『女王陛下直属女官ルイズ・ド・ヴァリエール嬢と魔法学院生徒ティファニア・ウエストウッド嬢を貴下の隊で護衛し、連合皇国首都ロマリアまで、至急連れてこられたし』―――その指令が届いたのは、昨日の夜のことであった。指令を受けた士郎は困った。なにせ『至急』と書かれてはいたものの、肝心のロマリアまで向かう手段がなかったのだ。普通に船を使って向かうとすれば、どれだけ早くとも一週間以上は掛かってしまう。そうなれば、指令にある『至急』には当たらないだろうことは確実だ。
そこで困った士郎は唯一その問題を解決出来る手段を持っている人物に交渉を持ちかけた。
その人物こそ、魔法学院の教師コルベールである。彼がキュルケの実家の協力を得て作り上げた“オストラント号”は、水蒸気機関を搭載しており、通常の船とは比べ物にならない速度を持つ船である。この船ならば、本来一週間は掛かるだろう行程を三日に短縮することが可能であった。
“オストラント号”でロマリアまで送って欲しい
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