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ジャズクラブ
第七章
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第七章

「ジャズを聴きながらね」
「言うねえ。実はな」
「実は?」
「それは俺もだよ」
 いつものジントニックを飲みながらそうだと話すヘンリーだった。
「俺もそうなんだよ」
「ふうん、そうなの」
「そうさ。それじゃあ」
 ブラッディマリーを手にしているキャスリーンにだ。一呼吸置いてから話す。
「店の中でも二人で聴きたいな」
「二人でね」
「駄目かな、それは」
「ええ、駄目よ」
 キャスリーンは微笑んでだ。彼に告げた。
「残念だけれどね」
「やれやれ。そう言うのかい」
「ジャズだけじゃ駄目よ」
 すぐにだ。ヘンリーに返すキャスリーンだった。
「その他にもね」
「その他にもなのかい」
「そう、お酒と」
「まだあるのかい」
「二人で」
 もう一つあるというのだ。今度はそれだった。
「そうしたいのだけれど」
「言うねえ。実は俺はさ」
「貴方は?」
「今一人なんだよ」
「離婚でもしたのかしら」
「いや、慰謝料とかの話じゃなくてな」
 離婚はしていないのというのだ。ヘンリーはその事情も話す。
「結婚する前に別れたんだよ」
「ダメージは最低限で済んだのね」
「経済的なことはな」
「精神的にはどうかしら」
「結構きたぜ」 
 笑いながらだ。キャスリーンに話すのである。
「まあ今は落ち着いたけれどな」
「失恋ね。何度経験してもあれはね」
「辛いものだよな」
「私の最後の失恋は半年前だったわ」
「へえ、案外最近なんだな」
「結構こたえたわ。それでね」
 どうしたかというのだ。その失恋をだ。
「ここで飲んでジャズを聴いて癒したのよ」
「酒に音楽か」
「そういうことよ。それで癒えたところで」
 ヘンリーが来たというのだ。その話をしてからだ。
 キャスリーンはブラッディマリーを飲み。ジントニックのヘンリーに言った。
「これまではお店の外でお別れだったけれど」
「これからはどうするんだい?」
「そこから先も二人でどうかしら」
「いいね。それじゃあな」
「何処に行くかはまだ決めていないけれど」
 店を出てもだ。それはというのだ。
 そんな話をしてだ。そうしてであった。
 二人は今それぞれ飲んでいるカクテルを飲み終えた。音楽も終わった。
 それでだ。カウンターにいるマスターに言うのだった。
「それじゃあね」
「今日はこれで」
「おっと、帰る前にね」
 その二人にだ。マスターは。
 二人にだ。それぞれだ。
 キャスリーンにはジントニック、ヘンリーにはブラッディマリーを出してだ。そのうえで二人に対して笑顔でこんなことを言うのだった。
「奢りだよ。飲みな」
「あれ、私がジントニックで」
「俺がブラッディマリーか」
「それを飲んでお互いのことを知るんだな」

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