第一章
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第一章
ジャズクラス
アメリカシカゴのある店において。一人の女がカウンターにいた。
背が高くすらりとしている。強い目の光は黒で長く伸ばした黒髪は波がかっている。唇は厚めで彫のある顔をしている。その肌は褐色だ。
その彼女がカウンターにいてだ。カクテルを飲みながら自分と同じ褐色の肌のタキシードのマスターに話すのだった。
「どうもね」
「何だい?アンニュイな気分なのかい?」
「そうね。アンニュイね」
笑いながらだ。彼女はこうマスターに話した。
「今はそうした気分よ」
「アンニュイねえ。あんたにしたら珍しいな」
「珍しいかしら」
「うん、珍しいね」
実際にそうだと返すマスターだった。
「あんたは明るいイメージだからね」
「いつもそういうイメージじゃないわ」
「アンニュイな時もあるのかい」
「あるわ。それが今なのよ」
こう言いながらカクテルを飲む。赤い。ブラッディマリーだ。
それを飲みつつだ。マスターに話すのだ。
「今はちょっとね」
「何かあったのかい?」
「仕事でね」
彼女、キャスリーン=マケンシーは銀行で勤務している。やり手の銀行員と評判だ。しかしその彼女が今はどうかというのである。
「ちょっと腑に落ちないところがあってね」
「ミスをしたのかい?」
「ミスはしていないわ」
マケンシーはそれはないという。だがこうも言った。
「けれどね」
「けれど?」
「御世辞にも品のよくない客の相手をしてね」
「で、その客が預金をたっぷりしてくれたんだね」
「そうなのよ。あれは多分」
「マフィアかい?」
「でしょうね。そういう感じだったわ」
アル=カポネのいた街だ。そうした話は昔からある。そして今もだ。どうかというのだ。
「よからぬ金を置いていったのよ。でその客を店長がね」
「丁重に扱ったと」
「そうよ。明らかに胡散臭い客でもお金を多く預けるのなら」
それでもだというのだ。
「いいのね」
「それが銀行じゃないのかい?」
「わかってはいるわ」
一応はという言葉だった。
「けれどそれでもね。どうしてもね」
「腑に落ちないねえ。そういうのは」
「そうでしょう?まあ誰でもお客さんだけれど」
「仕方ないね。そういうのは」
「そうね。だからそういう時はね」
「飲むかい?一杯位なら奢るよ」
マスターは手でシェイクさせながら話した。
「そうするかい?」
「そうね。それにね」
「それに?」
「音楽ね」
カウンターに座ったまま大人の笑みでだ。キャスリーンは言った。
「それも御願いするわ」
「そうかい。じゃあ音楽は」
「ジャズよ」
今度は微笑んでの言葉だった。
「それを御願いするわ」
「好きだねえ
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