暁 〜小説投稿サイト〜
蒼穹のストラトス
質問−しゅうげき
[2/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初
っては売り、それで生計を立てているいわゆる陶芸家という表の顔を持つ。ちなみに作り出される作品は爆発的と断言しても良いくらいに壊滅的に形が悪い。それはもう、途中で嫌になって握りつぶしたんじゃないかと疑うほどに歪んでいるのだ。余談だが一夏の家にある食器類はすべてその史彦作によるものなのだが、倒れないのが奇跡だと言わざるを得ないバランスの悪さに、そのうち自分で作ってみようかなんて思い立つ日が時たま起こる。
以前ふとしたきっかけで近所の人たちには"芸術家さん"と言われていることを知ったが、なぜあんなものが売れているのだろうか━━というのが、この世界の七不思議に思えて仕方がなかった。

「……あっ」

不用意に他のことを無意識へと沈み込みすぎてしまっていたのか、趣味として始めている釣り竿が緑色の結晶に包み込まれてしまったのに気付いたのは家に入って一度着替えてからあらかじめ用意しておいた釣り道具を手にとった時に、餌が切れていたことを思い出した直後のことだった。
コア型のフェストゥムと化した今の一夏の状態は、こうして触れた物質を同化させてしまうことがまれに存在している。遠見千鶴の薬のお陰である程度抑えることができるのだが、きちんと飲み続けていないとすぐに触れたものを無意識に同化しようとしてしまうのだ。
同化から解放することもできるのだが、この島の子供たちはまだ自分の存在を知らない。それが何を意味するのか……そしてそれによって起き得る結果は火を見るよりも明らかだ。

ひとまず釣り竿を結晶から解放してやると近場の釣具屋で餌を購入。準備を整え終えた一夏は目的地を目指すべく山の方を脚を向けた。



朝日が昇ってからすでに数時間。途中朝食のおにぎりを何個か頬張りながら山の中を歩く一夏はウキウキとした気分でいた。
竜宮島は人工の島だ。が、自然の生物はきちんといる。それはここに生を育まれる子供たちが真実を知るまででもせめて明るく元気に過ごして欲しいという一種の親心と、今は滅んだかつての日本の姿を忘れたくないという大人たちの想いからなされていた。
そんなわけで山の中に生息する魚は、日本で釣れる魚から外国の魚まで種類は様々だ。つねに移動を続けている竜宮島ならではな豊富さだ。フェストゥムの驚異がなければ、観光スポットとして一躍有名になっていたのかもしれない。
そういえばこうして釣りをするのは中学に入ってからはあまり━━というか全然無かった気がする。なにせバイトやら何やらでとにかく忙しかったものだからな……
逆に小学校の時ならクラスメートや近所の下級生たちと一緒に行けるときはとにかく貰い物の竹竿で駆り出していたのは、今でもよく覚えている。
そんなことを考えながら山道を歩いていると、川のせせらぎが聞こえてきた。

「おっ」

日光をきらきらと反射す
[8]前話 [1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ