第17話:ただ自分を超えるために(2)
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キドキが消えない、いつでも行けるぞ、という気持ちに切り替わっていく。
『用意……』
水の音と静寂。姿勢を屈める
――ピッ!!
電子ピストルの音が耳に入るや否や、俺は100mの一瞬に身を投じた。ただ、自分に打ち克ちたいという想いを胸に、何かを変えたいと思って後は一心不乱に泳いだ。背中の筋肉や腹筋が千切れそう、乳酸が蓄積や二酸化炭素の蓄積で身体に走る鈍い痛みや息苦しさに必死に耐えた。
ここでベストを出せたら、なんだか変われるような気がした。あくまで気がしただけだったが。
――1994年春。
再び桜が表舞台に立つ時代がやってきた。そして、その時代は出会いと別れが一度に来る時期でもあった。
まず、3月に水泳部や茶道部の所属していた先輩方が本校を卒業していった。輝日南高校へ進学した水泳部の元主将、輝日東高校へと進学した山口先輩を始め、俺が敬愛と畏怖した人々は人生の次のステージへと歩を進めていった。別れのシーズンはいつでも寂寥を禁じえないものだ。
もちろん別れの3月を過ぎれば、4月の出会いもあった。
2年生に進級して、クラブ代表として入学式に花飾りを配る作業をしている時だった。校門近くで花飾りを渡していた時に、俺はご両親と思われる大人の傍に見知った三人組を発見したので近づき、声を掛けた。
「梅原! 橘!」
「師匠! 久し振りッス!」
「遠野先輩、お久しぶりです」
梅原と橘は、俺の方へ駆け足で近付いてきた。俺は近づいてきた二人の肩の上にぽんと手を置いて、その後にカゴに入れてあった花飾りを2つ取り出し、それぞれの胸元に着けた。
まずは見知った二人、橘純一と梅原正吉の入学だった。橘も梅原も、大きめの学生服を買ったせいで、制服に着られているような感じで微笑ましかった。1年、2年経ったら、制服が身の丈にあってくる事を楽しみにしている両親の姿が目に浮かぶようだった。
そんな良く分からない感慨に耽っていた時に、ふと二人のさきほど居た場所に目を向けると、茶色がかった女子生徒が取り残されておろおろしていたのが目に入った。
「橘、あの子は?」
「あの子? ああ、梨穂子のことですか?」
「お〜い、桜井さんも来いよ!」
(ああ、やっぱり桜井梨穂子だったか。確か何度か、橘との組み合わせて見たことがあったな)
俺は、橘と梅原に誘われおずおずと近づいてくる女の子と、2年前に橘とよく一緒にいた女の子の姿を照らし合わせていた。目の前に桜井が来ると、俺は自己紹介を正式にはしていなかったことに気が付き、自分から切り出した。
「俺は、この学校の2年生の遠野拓です。ひょっとしたら何度か見かけているかもしれないけど」
「は、はい、遠野先輩。えと、その、桜井梨穂子です。よろしくお
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