第17話:ただ自分を超えるために(2)
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のような自分探しのような話題は考えたくなかった。考え出すと、自分がこの世界であんな行動をして本当によかったのか、鏡に映る姿を見れない自分はおかしいんじゃないか、などとウジウジ悩んで、そんな自分が情けなくなるからだ。
「そうですね。『自分なら何でも出来る』という信念が現実を知って崩れたときに一度考えたことがあります」
「ふふ……それは、いかにも中学生の男の子が『真剣に哲学しています』って気合いが伝わってくる気がするわ」
まるで目の前の子どもをからかうような口調で先輩は言った。
俺も、全くその通りだと思った。
「いや、当時は真剣に考えたんですよ。何で俺はアイツに勝てないのか、俺は何で選ばれた人間じゃないのか……など、今からすれば馬鹿みたいな議題に夢中になったり」
「あら、そういうものなの? 」
「何と言いますか、人生悩んだら足元を一度振り返ってみるってあるじゃないですか。そこで、今の自分の立ち位置を把握したり、足りないものを再確認したり」
「分からないわ、そんなことを考えたりしたことは、あたしの中で今まで一度もなかったもの」
先輩はぴしゃりと言い切った。
「いくらかは、遠野君のおかげね。あたしは、遠野君に自分の事を吐き捨てていくうちにだんだん整理できるようになった。あなたと出会う前には怒りや憎しみで見えていなかったものが、次第に見えるようになってきたの」
「例えば?」俺は訊いてしまった。
「あたし自身。やれ『絢辻家の誇り』だとか『家を守るための奴隷』だとか随分な事を言ってたけど、それは全部立ち上がれない自分への言い訳。本当に今の境遇が嫌で改善する気があるなら、その信念に則って行動できるはず。でも、あたしは出来ずにその境遇に甘んじる以外に何もできなかった。そこに至って、やっと気が付いたの。ああ、あたしの中身は恨みやあの人たちの価値観以外に何も無いんだって」
その言葉を聞いた時、僕は何だか酷く寂しい気持ちになった。
なんだか、自分の事を代弁されているような気がしたのだ。俺も過去の人生から無関係ではいられないこと、自分の顔をじっくり見ることが出来ないこと、自分が自分でない感覚をたまに感じることなど、俺も過去の価値観を取り除いたら何も残らないんじゃないかと。
境遇は違えでも、俺たちはどこか似ている。そんな気がしたんだ。
「それだけ自分が無いとしっかり分析できていれば、あとは時間を掛けて中身を詰めていけばいいのではないでしょうか」
「中身?」
「図書館を回って自分が本当に好きな本を見つけたり、好きな音楽を探したり、大好きな親友を作ったり、そのようにして自分を作るものを身体に集めて積み立てればいいんですよ。あせらずじっくり、改善していきましょうよ」
「なんだかあたし、カレーになったみたい」
「おい
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