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黒き刃は妖精と共に
【プロローグ】 滅竜魔導師
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ディはシャルルとの会話の節に互いに名前を呼び合っていたが、明確な自己紹介はまだだった。礼儀正しく、しっかり者な彼女としてはこの自己紹介は少し遅めのものだったが、なにぶん唐突だったからだろう。青年は何を言われたのかわからないといった様子できょとんとしている。

「お名前を伺ってもいいですか?」
「あ、ああ……。僕はシュヴィ・クライス。どうしたの、突然」

 ――シュヴィ・クライス……初めて聞く名前、かな。
 口の中でつぶやいて。
 ごめんなさい、と一言断ってからウェンディはシャルルの耳元へと口を近づけ何かをささやく。
 何かを提案したのだろうか。シャルルが渋った様子で唸るが、ウェンディが必死な様子で何かを再び囁くとやはり難しい顔をしたままだったが、肯定した。

「ちょっと、見てもらってもいいですか」

 云うと、ウェンディはおもむろにシャルルへと手を伸ばした。うなずき、せっかく巻いた包帯を外し始めるシャルル。白い毛に覆われた肌にはいまだ鮮血が滲んでいる。
 見るからに痛々しい姿。
 意図があるのだろうと、青年がそれを止めることはない。
 のばす、細い腕。
 指先には、暖かな光。
 先ほど青年に力を与えた際にも見せた、力強くも癒しを感じさせる光だ。
 光は収束し、シャルルの傷口へと集まり、そして……

「…………」

 眠そうな青年の半目が、驚愕にわずかに見開かれる。
 ウェンディの細腕から流れる光は、シャルルの腕の傷を瞬く間に消し去ってしまったのだ。
 まるで、傷口が自然治癒していく光景を早送りで見ているような、そんな光景。
 治癒魔法。
 滅竜魔法と同じレベルで存在の証明がなされていない魔法だ。
 血痕だけ残し、完全に治癒しきったシャルルの腕。
 うなずき、痛む足も忘れ立ち上がったウェンディは、すでに行った自己紹介を修正する。

「私は、ウェンディ・マーベル。あなたと同じ、滅竜魔導師(ドラゴンスレイヤー)です」

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