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黒き刃は妖精と共に
【プロローグ】 滅竜魔導師
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いうわけではないが、男性として十分だろう。和服のため体の線は見えづらいが草鞋の足や手首の太さから推測するに細身らしい。少々長い襟足、目をぎりぎり覆っている前髪。失明したのだろうか、左目は包帯に覆われ右目は眠たそうに細められている。
 青年は、そのまま治療道具を片付けようとする。
 声を上げたのはウェンディだった。

「え、片付けちゃうんですか?」
「ん? あれ、まだ手当てしてないとこあった?」
「いえ、私は大丈夫ですけど……。えと……」

 言い淀むウェンディに青年は一瞬首をかしげ、ああと手をうった。

「僕なら平気だよ。あの程度じゃ怪我なんかしないさ」
「でも、ウォードッグにあんなに噛まれてましたし……。私、結構怪我の手当てとか得意なので、もし良ければ……」
「んー、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね。ほら」

 青年が打裂羽織の下に着ていた衣服はこの国では珍しい東方の『着物』といわれるゆったりとしたもので、打裂羽織と同じく真っ黒な生地に素人目にも職人技とわかる美しい彼岸花が描かれている。本来はその下には下着程度しか着ないのだが、手当ての最中屈んだ際見えた下半身にはくるぶしより少し上までのジーンズを穿き、上半身はノースリーブを着ている。
 そんな着物の袖をおもむろにまくると、そこには傷ひとつない男性にしては少々白い腕が覗いた。手首から肘にかけてテーピングがなされていたが、それは元々らしく血痕などはない。
 少なくとも、掌、手首、二の腕あたりを噛まれていたはずなのだが、何度見直してもそこには圧迫され赤くなった痕すら見られない。
 衣類が特殊な素材でできている可能性もあったが、だとしたら直接噛ませたはずの掌まで無事なのはおかしいだろう。
 ぱちくりと目を白黒させるウェンディとシャルル。
 予想していた反応なのだろう、青年はわずかも気を悪くした様子もなくそっと腕も袖中へと戻した。

「僕も君と同じく魔導師でね。ちょっと、その魔法が特殊なんだよ」

 そう言って青年が手を伸ばしたのは、腰に携えていた自身の得物である黒い刀。鞘から柄にかけて真っ黒な刀だが、それとは関係なく奇妙な見た目をした刀だった。
 特に、大抵鞘というものは木製であることが多いのだが、光を吸い込むように黒いそれは重量感あふれる金属で出来ている。本来は(こうがい)栗形(くりがた)下緒(さげお)が備えられているはずの場所は握りやすいよう指の形に加工された特殊な形状をした取手のような部品が付いており、さらには拳銃の引き(トリガー)用心金(トリガーガード)が鞘口と水平に装着されている。銃口(マズル)はないが、変わりに分厚くなっている鞘口の右側に穴が開いている。
 そこまで付いていながら、まさかそれが飾りなどという訳ではなく。奇妙な付属品の数々は
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