【プロローグ】 滅竜魔導師
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を目前に、ウェンディは目を閉じる。
襲いくるであろう痛みに、死に、悲鳴をあげることすらできず、無意味に身を固める。
耳元に迫る、ウォードッグのうめき声。
が、突然そのなかに鈍い打撃音が混ざった。
痛みはない。なら、目をつぶる寸前に見えた自分とウォードッグの間に割り込みかばってくれた白猫がその打撃を受けてしまったのでは。
「シャルル!!」
見開く、瞳。
その目にうつったのは血まみれの白猫――シャルル、
「え……?」
ではなく、黒い打裂羽織をまとい、同色の笠をかぶった人影だった。
地面と水平に右へつき出された足、それはウェンディに襲いかかってきたウォードッグを蹴り飛ばしたらしく、直線上の木の根もとに不自然な姿勢のウォードッグがうなだれている。
仲間の欠損を悟ったのか、混乱するウェンディから黒い人影へと目標をかえたらしいウォードッグ続けて二匹、人影へと襲いかかる。
引っ掻かれればただではすまない爪が、噛みつかれれば骨まで噛み砕かれる牙が、同時に人影の命を狩ろうと迫る。
「……ははっ」
聞こえてきたのは、若い男性のものと思われる笑い声。
どうやら戦闘技術を心得ているらしい人影は、なにを思ったのか迫りくるウォードッグのうち一匹……噛みつこうと大口を開けているほうのウォードッグ口へと右手を伸ばし、ためらいなく突っ込んだ。当然ウォードッグはその右手を噛み砕こうと牙をたてるが、人影はなに食わぬ様子でその顎を掴みもう一匹へと叩きつけた。
本来ウォードッグというモンスターは何十メートルもある段差をものともせず駆ける頑丈な体を持っていて多少の打撃では怯みもしないはずなのだが、人影の力は相当強くウォードッグは揃って地に落ちてしまった。
ものの数秒で三匹が戦闘不能に陥ったが、その程度で怯むウォードッグではない。
人影は噛ませた腕をすぐさまマントの中へと隠したが、わずかな時間とはいえ噛みついていたところを無理やり引き剥がしたようなもの、少なくとも負傷していることは確実。
五匹。
狭い木々の隙間を十全に走ることができるギリギリの数のウォードッグが目にも止まらない速度で人影へと襲いかかる。
しかし、人影は引くどころか背を曲げ前へと飛び出した。
伸ばす、先程とは逆の腕。なにを考えているのか、再びウォードッグの強靭な顎へとその腕を突っ込もうとしているらしい。
顎を掴む寸前、ウォードッグが急停止。目標を掴み損なった人影がたたらを踏みながらなんとか転倒を免れる。人影の腕を破壊することより、仲間の消耗を回避することを優先させたのだ。
背後から、側面から、木々伝いに上から。腕に、足に、腰に、背に。鋭い牙が突き立てられていく。
腕の先、満足に遠心力を利用することができた先程とは訳が違う。
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