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黒き刃は妖精と共に
【プロローグ】 滅竜魔導師
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 そこは、知的生命体の手によってもたらされるの穢れをしらない美しい場所だった。人工的な音がない、強いて言えば風と鳥のさえずりのみが聞こえる緑豊かな樹海だ。
 だが、今日に限っては平和な場所である、とはいえないようだった。

「きゃっ……!」

 道なき道を駆ける無数の影。
 ウォードッグと呼称されるその獣は、狼に似た比較的小型のモンスターである。小型のモンスターというと伝聞ではあまり驚異に感じないかもしれないが、例によってこのモンスターは集団で狩りを行うのだ。
 一見細く折れてしまいそうにも見える足は筋肉が極限まで最適化した結果であり、その脚力は並の馬をも凌駕する。爪先の鋭い爪は大木を垂直に走ることすら可能という。
 そんなウォードッグに追いかけられているのは、幼い少女だった。深い青色の腰まで伸びた髪に、右肩にはなにか生き物を模したようなタトゥーが描かれている。

「ウェンディ、大丈夫!?」
「う、うん。なんとか!」

 少女の名前を呼んだのは、白い毛並みをした猫だった。
 猫とは言うものの、どうやら少女――ウェンディの連れらしいその生物は、会話していること已然ににその背中からは白い翼が生え、空を飛んでいる奇妙な生命体だった。
 その猫――のような生き物――に急かされたウェンディは、躓き崩れた体制をなんとか正しウォードッグから逃げだそうと加速する。
 幼い少女が馬よりも早いモンスターから逃走する、それは当然不可能なことだが、なぜかウォードッグは未だに彼女へとたどり着いていない。
 ウェンディの駆ける速度は、その可憐な容姿とはうってかわり異様なまでに速い。駆ける、というよりは翔ると表現した方がいいような、一歩一歩が長い走り方だ。軽い足音とは打って変わり、一歩一歩が爆発的な加速を生んでいる。
 彼女は人間である。しかし、そこに普通の、とはつかない。

――【魔導師】

 魔力を行使することのできる、ごく限られた稀有な才能を持つ人間。才能の有無は生まれた瞬間に決定しており、無ければ年老い知識に溢れた者でも行使できず、あればこのように幼い少女でも人の常識を上回った力を使うことができる。
 しかし、

「あっ……」

 いかに魔力を行使できても、幼い体に長時間その力を使う体力は備えられていない。
 疲労のせいだろう、ガクリと膝が曲がり崩れるようにウェンディが転倒する。

「ウェンディ!」

 白猫が叫ぶが、足をひねったらしくウェンディは立ち上がれそうにはない。
 ウォードッグは好戦的かつ肉食のモンスターである。襲われ、食い殺される人間は決して少なくない。
 必死に反転しウェンディとウォードッグの空間に白猫が割り込むが、戦えないから逃げていた二人、それはどちらが先に食われるかの違いしか生まない。
 死
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