第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
四十八話 小さな豪鬼
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萃香は躊躇わず空中に居る紫へと躍りかかった。
「小細工が効かないんなら――――直接ぶっ叩くまでだよッ!!」
紫に向け再び萃香の豪拳が襲い掛かるが紫は避けようとせず迫り来る萃香の拳目掛けて鉄扇を突き込んだ。 ――――当然と言うべきか、紫の膂力が鬼に適う筈も無く鉄扇は砕け衝撃で紫は後方へと吹き飛ばされた。そして萃がは吹き飛んだ紫を追撃しようとした瞬間――――自身の背中に鋭い痛みが奔る。何が起きたのかと萃香は後ろを振り向くと、
「なッ!」
奇妙な空間の裂け目から一本の白刃が自分の背中を貫いていたのだ。
混乱する萃香を嘲笑うかの様に萃香の周囲に十数の裂け目が生まれそこから数十を超える刀や槍が撃ち放たれた矢の如く萃香に襲い掛かる。
咄嗟の事で反応が遅れた萃香だが驚異的な拳速で次々に迫る凶刃を叩き落としていくが撃ち漏らした刃は無情にも彼女の左腕、右太もも、左脇腹に深々と突き刺さり萃香の動きを封じてしまう。
その瞬間、萃香の背後に開かれた空間の裂け目――――スキマから先ほど萃香の一撃で吹き飛ばされた筈の紫が現れ左手に持つ鉄扇を萃香の後頭部目掛けて振り下ろす――――が一瞬にして萃香は霧状になりその一撃を回避し萃香に突き刺さっていた刃が支えを失い地上へと落ちていく。
「……そんな事まで出来るのねあなたの能力はまるでインチキね」
「……あんたにだけは言われたくないね、この性悪ッ!」
紫の言葉に実体を取りながら萃香はそう皮肉った。霧状になったからといって傷が癒える訳ではなく刃で貫かれた箇所から血が流れ続けている。
紫は確実な傷を負わせる為に敢えて萃香と正面からぶつかり一方的に押し負ける事で相手の油断を誘ったのだ。もちろんこの方法を取った紫自身も無傷ではなく隠してはいるが右腕は折れていた。
本来この手の騙し戦法は虚空の十八番であり紫には向かないものなのだが直感的に体が動いてしまった。
(困ったわね、お父様に似てきたのかしら?)
紫は内心でそんな事を思い溜息を吐く――――がその口元には笑みが浮かんでいた。
気を取り直し紫は未だに闘志を鈍らせない萃香に視線を向ける。いくら頑丈な鬼といえどあれだけの傷と出血量なら長くは動けないだろうと予測した。
事実萃香の状態は危険な域に迫っており戦える状態ではない――――が彼女は鬼である。極端に言えば“敵に背を向け逃げる位なら死を選ぶ”そんな種族なのだ。
結界で閉じ込められている事はかえって彼女に戦う以外の選択を奪う結果になり紫の“百鬼丸の仲間の捕獲”という目的の難易度を引き上げてしまっていた。
だが同時に鬼は自分が認めた相手にはとことん心を開く種族でもあった。
「……ハハ……ハハハ……ハーハハハハハッ!!」
突然笑い声を上げる萃香に紫は訝し
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