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東方虚空伝
第三章   [ 花 鳥 風 月 ]
四十八話 小さな豪鬼
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だけだったみたいだね」

 上空から穿たれた大地に視線を落としながらそう呟く萃香。しかし周囲を見渡しすぐに異変に気付いた――――結界が解けていない、つまりあの女は死んでいないと。
 そして再び視線を穿った大地に向けた瞬間――――紫色の閃光が萃香を背後から襲い地面へと叩き落とした。

「グァッ!」

 墜落した萃香が上空に視線を向けると水色の光弾が八つ、彼女目掛けて迫っていた。萃香は上体を起こしその光弾に向け右手を突き出し掌を開くと光弾は萃香に当たる前に空中で霧散する。

「……あなたの能力は“拡散させる”力かしら?}

 萃香の視線の先、空中に佇む紫がそんな質問を口にする。問われた萃香はゆっくりと立ち上がりながら、

「……半分正解だよ――――ご褒美にもう半分の力も教えてやるよッ!!」

 萃香がそう叫ぶと同時に紫は凄まじい力で全身を締め上げられる感覚に襲われる。

「ッカハ!?」

 その力は徐々に強くなり声を出せないどころか呼吸すらままならなくなっていく。

「あたしの力は“密と疎を操る程度の能力”!今あんたの周囲の空気の密度を高めてるんだよッ!あたしに嘗めた口聞いた事を後悔しながら圧死しなッ!」

 “密と疎”――――つまりは密度の事である。萃香はあらゆるものの密度を自在に操る事が出来る。
 空気のある所には必ず空気圧という圧力がかかる。この世の全ての物体はこの空気圧と同じ圧力を体内から発し潰されないようにバランスを取っている。呼吸をする、という行為もこの圧力を利用した行動だ。
 普段は気にも留めない軽い空気が密度を増すだけであらゆるモノを押し潰せるだけの力を得るなど思いもよらないだろう。
 抵抗しようにも押し潰そうとしてくるモノは形が無く押しのけられない為ただ潰されるのを待つしかない――――これが紫以外の人物だったのなら。
 萃香は突然能力の手応えが消えた事に驚きを隠せず、先ほどまで圧力に晒されていた紫が激しく咳き込んで息を整えている事に更に衝撃を受ける。

「……あんた……何をしたんだい?」

 紫は未だに咳き込みながら眼下の萃香に恨みがましそうな視線を向け、

「……ゴホッゴホッ!……大した事じゃないわ……ちょっと“気圧の境界”を操作しただけよ。あなたの能力を打ち消した訳じゃないわ」

 萃香の能力そのものには干渉出来ないが自分の周囲の空気圧を操作し密度を下げる事は可能だった。
 だがここである優劣がはっきりと確認出来る。お互いに同じ物に対し能力を行使した場合――――能力の強い方が制御権を得られる。つまりこの場合なら萃香と紫の“能力の綱引き”は紫に軍配が上がり萃香の力をある程度無力化出来る事が証明されたのだ。
 しかし能力勝負で後れを取ったくらいで鬼が勝負を降りるはずも無く
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