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今宵、星を掴む
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 「少なくとも俺は初耳だ」

 どうやら海の向こうには、裕也と似たようなことを考えている人間が居たようだ。そして、どうやら先を越されてしまったらしいことまでは理解出来た。

 「で、これがどうしたんだ?」

 「ん、いや。今、噴進弾を開発してた連中の手が空いたから、試作してみようかと思ってるんだ」

 「おお、ついにゴダード博士の志を継ぐのか」

 スコットが目を輝かせた。はじめて会ったときから20年以上たっても、この表情だけは変わらない。

 「あと半世紀はかかるだろうが、何とか宇宙に行ってみたいからな」

 「ハハハ、誰もやらないなら、俺がやると?」

 「その通り」

ひとしきり笑いあって、「見込みがあったら上に出資の願いでも仲介する」と言ってスコットは帰っていった。
 静かになった社長室で、裕也は今しがた聞いた話を思い出した。
 
「ドイツのX2ロケットか……」

先を越された、という思いもあって、がぜんやる気は増している。
何はともあれ、先駆者の到達点を知るべきだと考えた裕也は、陸軍の伝手を辿って情報を集めてみることにした。


 1949年8月某日 東京・市ヶ谷 軍務省

 高嶋和樹少佐の身辺は年頭より始まった混乱の渦中にあった。
 今も部隊移動やそれに伴う車両、資材、食料、武器弾薬その他の書類の山と格闘しているところである。彼が居るのは、東京都新宿市谷の軍務省地下におかれた統合軍令部指令室のデスクだ。
 ひっきりなしに行き交う情報の波と、それに対応する命令の嵐が巻き起こす潮流の中心に、高嶋少佐は立っているのだった。
 1944年のシンガポール港からの派手な逃避行から無事に日本へと帰国した高嶋大尉は、その足で向かった陸軍省で報告と資料の提出を行い、昇進と共に休暇の許可と次の辞令を受け取った。その部署は予算措置上の手続きのために作られた紙の上にだけ存在するもので、戦後の混乱に対応する陸軍省は、彼に新しい仕事を与えるよりも当座の対応を優先したのだった。結果として、高嶋少佐は苦労して持ち帰ってきた資料や機材の扱いから外されたことになる。彼は、持ち帰るまでが任務だったのだ、とあきらめるしかなかった。
 それから5年。組織は、空軍の結成と陸海軍省の解体、軍務省への統合を経て、皇国軍と名前を変えていた。
1945年の京都講和条約の締結により、アメリカを中心とする西側世界に組み込まれることとなった日本は、盟主からの要求をのまざるおえない立場にあった。天皇主権から国民主権への移行、それに伴う普通選挙制の実施、軍縮、財閥の解体再編、小作人労働者への土地分配、そして憲法の改正。国号すら日本皇国と変更された。
書き上げれば大日本帝国という国家の根幹をすべて破壊してしまうようなものばかりである。もち
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