俺馴? 外伝2ー1 [R-15?]
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管に血液が送り込まれた気がした。
ああ、記憶にある。ハッキリとどんな奴だったか思い出せる。自分の記憶に疑いはないのだ、と抱くのもおかしい疑惑が晴れるのを感じた。普段は碌に挨拶もせずに隣に並ぶのだが、今日は声をかける。
「達田、おはようさん」
俺の言葉に反応して、前をちんたら歩いていた達田が振り返り、いつもの人懐っこい笑みを浮かべる。普段は鬱陶しいとだけ思うそれが、とても好ましい事に感じる。
「んー?おう、さざめじゃん!おはよう!」
変わっていない。いつも通りだ。これほどにも変わらないということが嬉しく感じるのは初めての感覚だった。下らない事ばかり言う男だが、そんな男も自分の世界認識に一役買っている重要人物なのだと安どのため息が漏れた。
だが、それも幻想だったのかもしれない。次に続く言葉が、俺の安堵を打ち砕く。
「今日も奥さん連れて登校か?羨ましいね〜!」
「……お…前、何を――」
「おっと、俺に構ってると奥さんが不機嫌になっちまうぜ?じゃ、お邪魔虫は退散と行きますか!」
「あ、待っ――」
「ちゃんと体を労わるんだぜ〜!!」
咄嗟につき出そうとした左手がいりこの手と繋がっていることを自覚した時には、達田は足早に俺の目の前を去ってしまった。続くはずだった言葉が喉元で止まり、霧散する。
いつもならばあいつは場所も時間も弁えずに人をからかってくるはずなのに。いつもならばあいつはうんざりするくらいに無駄話を聞かせて困らせる奴なのに。何故だ、達田。お前も俺の知っている達田とは違うとでもいうのか。確信を持った筈の俺の記憶が、再び霧中に沈む。
――俺の記憶は正しくないのか?お前の今が正しくないのか?
達田唐丸の姿形を持ったお前は――それとも、俺の記憶の中にいる達田唐丸は――正しくあるのは、どちらだ?お前は――誰だ?いりこと繋がれていた手が引かれた。見ると、彼女の屈託のない笑みが俺の網膜に映し出される。くすり、と小さな笑い声が不可思議なまでに耳にこびり付く。ただの笑い声が、ひどく頭の裏に響く。
「気を使わせちゃったね。でもそのぶん二人きりでいれるって思うのは贅沢かなぁ?」
「・・・・・・お前は元々図々しいだろ」
さっきから、一言一言ことばを発するのがもどかしくて、脳裏に走る緊張と警鐘がいちいち躊躇いを生じさせる。いつも言っている筈の軽口が、今だけはいつもと違う結果を齎す予感に縛られる。その一言と、俺意外の人間の知覚している世界が決定的にずれていることを思い知らされるかのような道への恐怖が心を竦ませているのか。
そんな中で、繋がれたいりこの細く柔らかい掌だけが、いやに暖かく感じられた。
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