俺馴? 外伝2ー1 [R-15?]
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女が見せているそれは、いつものそれと決定的に違う。
陶酔。あるいは恍惚。それに類する顔に見えるのは、気のせいか。
リップグロスでも塗っているのか光沢のある桜色に染まった唇は小さく開き、頬はほんのりと朱に染まっている。眼はまるで蕩けるように目尻が下がり、だがどこか熱を帯びた眼光がこちらの行動の一挙手一投足すら逃すまいと見据えている。時折もぞもぞと足を動かしたり、湿った吐息を小さく漏らしている。
そこには扇情的なまでの色気と、触れれば手を傷付けそうな危うさを纏った女がいた。いつも馬鹿みたいに明るいあの田楽入子と、決定的に価値観や世界観の異なった何かが。
――いったい俺の食事風景の何がそこまで彼女を”こう”している?
分からない。その理由は全く以て理解できない。どうして、なぜ、その言葉ばかりが所在もなく心中を駆け巡る。その疑問の答えをただの一つも確認できていないという事実が、さざめの心を不安にさせた。元々彼女はこちらとの接触に積極的であったが、こんな態度を取る人間でも、こんな表情を見せる女でもなかった筈だ。
かつて、さざめの心は彼女の出現によって大きく揺るがされた。事実や認識という事柄について寝る魔も削るほどに考え、思い悩んでいた時期もある。その際に彼女に何度も抱いた様々な疑惑があった。それでも、さざめはいりこという一人の少女を受け入れて来た。
それまでさざめはいりこを鬱陶しがることはあっても、拒絶したりすることはなかった。
だが、事実を確認したその時に――明確かつ明白に、自分が彼女を拒絶する予感がした。
いや、それよりも――俺はいりこを恐れているのか?
なあ、いりこ。お願いだから、臆病な俺に耳触りのいい真実を聞かせてくれないか。
お前がそこまで俺を見つめ、理解できない何かに歓喜している理由。
お前がまるで当たり前のように俺の目の前にいる事。
家族の痕跡が無くなっている事の理由。
まさか。まさかとは思うが。
あの時、おまえが玄関先で俺を幼馴染だと呼んだあの日から味わっている「世界と俺の認識のズレ」と同じような、俺の認識した過去の事象変更とでも呼べる事態が起こっているなんて、言わないよな。
その疑惑をぶつけることが出来ないまま、さざめは食事を終えた。その姿をうっとりと眺めていたいりこが、思い出したようにテーブルの隅に置いてあった紙袋を漁り、その中身と水の入ったコップを差し出す。
「あ、そうだ……はい、お薬」
「は?薬?なんのだ?」
さも当然のように突き出されたそれに、俺はまたしても理解が追い付かない。俺は薬を日常的に服用などしていない。だがそんな俺こそ不思議だとでも言うように、いりこは薬――透明な袋に入った粉薬とカプセル剤だ――のふちを破りながら首を傾げる。
「だから、後遺症を抑えるための薬
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