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異伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(ヴァレンシュタイン伝)
異聞 第四次ティアマト会戦(その3)
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帥にとっては完璧な勝利だな。反乱軍を撃破するだけでなく、私を押さえつけるとともに貴族達の歓心を買う。そしておそらくは他の軍人達への警告の意味も有るだろう、自分を甘く見るな、だ。但し、上手く行けばだが……」

「ミュッケンベルガーの思惑は分かった。向こうがその気なら遠慮する事は有るまい、こちらはこちらでやらせて貰おう」
俺の首根っこを押さえつけるだと? 上手く行くと思うのか、ミュッケンベルガー。俺を甘く見たな、そのつけはお前自身に払ってもらう。この戦いを勝利に導くのは俺だ、お前じゃない!



帝国暦 486年 9月13日   ティアマト星域  シュワルツ・ティーゲル  フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト



「違う違う! それはこっちだ!」
「照明をもっと用意しろ、これじゃ映像が暗くなる!」
「カメラはこっちだ! 配置図をちゃんと見ろ!」
「時間が無い! 急げ!」

戦艦シュワルツ・ティーゲルの艦橋は喧騒の中に有る。大勢の人間が機材を運びセットを整えていく。何をしているのかと言えば例のヴァレンシュタイン少佐のケーキ作りを放送で流す準備だ。今、これから、ここで、生放送で流すのだと皆が張り切っている。しかも放送開始時間は十二時四十五分、つまり作戦開始から五分経ってからになる。

「グレーブナー、……グレーブナー!」
大きな声を出した。そうしないと周囲がうるさくて声が届かない。二度目の呼びかけでグレーブナーが気付き近寄ってきた。軍服の上着を脱ぎワイシャツを腕まくりしている。この準備の総指揮を執っているのがグレーブナーだ。額には汗が浮かんでいる。

「本当にやるのか」
「もちろんです」
「……」
俺が無言でいるとグレーブナーが表情を改めた。俺が反対だと思ったのだろう、当然だ、まともな頭をしていれば戦闘前にこの有様は論外だと言うに違いないし、戦闘中にケーキ作りなどキチガイ沙汰だと言うだろう。

「閣下、前回の惑星レグニツァの戦いの後、我々司令部の人間がどれほど兵士達に責められたか、お忘れですか?」
「……いや、忘れてはいない」
そうなのだ、それを言われると一言も無い。

ヴァレンシュタイン少佐にケーキを作って貰うという案が決定した後、放送は準備等の関係も有り戦争終結後に想定していた。もっとも兵士達からはかなりの不満が有った。戦争終結後では戦死して見られない可能性もあるではないかというわけだ。その不満が先日の惑星レグニツァの戦いで爆発した。

あの戦いは酷かった。俺の戦歴の中でも最悪の戦いと言って良いだろう。一度は戦死を覚悟したがそれは兵士達も同じだった。戦死の危機から脱出した兵士達は改めて司令部に対し早急に放送するように求めてきた……。そして司令部は戦闘が始まる前に放送するべく必死に準備している。

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