秋桜に月、朔に詠む想い
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朝露が草の葉を流れ、極小の円を枯葉に広げた。
優しげな静寂が支配するその場で、キリ……と反抗を示すかのように軋みを上げるは力強くしなった弓。
一点を見つめる紫水晶は揺るがず、薄い桜色の唇から僅かな呼気が吐き出され、ある一時を以って、ピタリ、と止まる。
一重、二重……それは僅かに切り取られた間であった。
幾重に重ねたかも分からぬ時分に、漸く、弦が歓喜を上げる。
固い乾いた音を立てて突き刺さった矢は木に描かれた的の内側を射抜き、ほう……とその少女は吐息を漏らした。
「……見事」
感嘆の息を漏らした黒衣の男は笑顔で呟く。矢を放った少女はふにゃりと笑った。
「ありがとうございます」
銀糸のように光る髪を一つに纏めて揺らし、嬉しそうにお辞儀をした少女は月。普段の侍女服とは違い、動きやすい格好であった……と言っても、霞の衣服に似た道着のようなモノを着ている。
横倒された木に座ったまま、秋斗はまた弓に矢を番えはじめた月を微笑ましげに見ていた。
森の中、内密に行っているのは早朝の訓練。
明けの空が白み始める前に出て、完全な日の出と共に朝の訓練を終了するのは、華琳が整備しなおした戦拠点専用の城、官渡に来て数日経ってから、秋斗の日課である。
練兵場でも確かに出来る。しかし朝は森で訓練していた。戦では開けた平地での戦闘がほとんどではあるが、追撃や撤退の時に森や林に逃げ込むかもしれない、そう考えて、地形把握と自身の感覚研鑽がてらである。
そんな彼に、月が頼み込んだのだ。
『弓を……一緒に練習させてください』と。
嘗ては涼州の王であった彼女。
王とは優秀な血を引いている事に他ならない。それをよく理解していた華琳は、妹になるのだから武器の一つも扱えなくては困ると、秋斗達が街に居る間、秋蘭に内密の指示を出し、人目に付かない日と時間帯を選ばせて弓術を教え込ませていた。
詠にすら内緒の武の鍛錬に、月はイケナイ事をしている気分に苛まれるも、持って生まれた武の才覚がやはりあったのか、目に見えて上達していく自分に嬉しさを覚え、そのうち自分の腕前を見せて驚いてくれたらな、と悪戯心の方が大きくなっていた。
ただ、月には華琳から固く諭されている事がある。
戦場で戦わせない。
直接的には人を殺させない。
その二つ。例え妹になろうと、月にそれらをさせる気は無い、と。
武官の心を理解させる為と些細な自衛能力の獲得、そして精神を鍛え上げさせる為。
広がる波紋の如く、狙いは多岐に渡るも、先立ってあげられる大きなモノがその三つであった。
王としての再教育、とでも言おうか。元より文官的な能力を磨いてきた月ではあっても、武の心得はほぼ無し。華琳は本気で自身を妹にする気なのだと、月はその指示を聞
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