秋桜に月、朔に詠む想い
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行けるで。でも兄やん。せっかく『移動投石器』も出来そうやのに、なんでこの戦では使わへんの?」
真桜と煮詰めた投石器の改良案の一つ。移動砲台の役割を果たすその兵器は、徐州での戦で袁家が用いた移動櫓の対抗策としては申し分ない。
秋斗はすっと目を細めるだけで何も言わず。代わりに朔夜が、凍えるような眼差しを浮かべて真桜を見据えた。
「強力な、兵器ではありますが、それだけで戦が動くわけではありません。この戦での、華琳様と秋兄様の目的と最終結果の絵図は多分一致しています。白馬でも延津でも無く、官渡に大多数の兵を集め、広く陣をも敷く意味は其処にあります」
「白馬も延津もウチらの領内の城やで? 取られたら拠点にされてまうやん」
「それでいいんです。白馬と延津では一度か二度、防衛を行って牽制しつつ引きます。官渡に本営を構える以上、二つに縛り付けてしまえば堅実な攻めを好むらしい袁家の軍師は長期戦略を取ろうとするでしょう。真正面から押し返すだけが戦ではありません。こちらは外部戦略によって兵の総数を少なくせざるを得ませんから、それを利用して敵の思考の枠を狭めに行きます」
むむむ、と首を傾げる真桜は狙いに気付かない。
この戦で欲しいモノが何か……それを口にした秋斗に、朔夜が道筋を提示していくのがここ最近の二人。華琳と描いている絵図が同じであるとまで言われて、過大評価だ、と感じる秋斗だが口にはしない。
二人で空想の盤上に描いた戦場はある。思い通りにいかないのが戦という生き物であるが、秋斗は『捻じ曲げたい断片』を持っている。
それを為せるように戦の組み立てを行うのが朔夜の役目。
数学の証明の如く、秋斗はポンポンと途中に切片を与えて行き、朔夜がソレを繋げる。以前……雛里がしていたように。
此処に詠が加わると、外部の政略的な動きにまで視点が広がり、より正確な時機の計算と未来予想が描ける。
――軍師って奴等は化け物ばっかりだな……
切片から道筋を立てる秋斗の思考能力は日々研鑽されている。
元よりこの時代の人間とは違う思考訓練を重ねてきている上に、間違いが許されないという重圧が彼の脳髄に拍車を掛けていたから。
それでも、と思う。朔夜や詠のように、広い視点や素早く的確な証明は導き出せない。地頭の差というモノは此処に出る。
誰かが言った言葉がある。
この世の理は即ち速さだと思いませんか、と。物事を早く終わらせればその分時間が有効に使えます、とも。遅い事なら誰でもできる二十年かければ馬鹿でも傑作小説が書ける、なんて事も聞いた事がある。
文化の基本法則ぅっ! と速さに全てを賭けるどこぞのアニキの声が最後に聞こえた気がして、なるほど速さが力ってのも真理だ、と秋斗は一人で納得していた。
「秋兄様?」
「ん? ああ、お
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