秋桜に月、朔に詠む想い
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いて理解を深めていた。
また一つ、矢が飛んだ。
今度は的を逸れて後ろの木に突き刺さる。しゅん、と肩を落ち込ませた月は、秋斗から声が上がらない事に、落ち込みを色濃く浮かべる。
次こそは……と勇んだ所で、落ち葉が乾いた音を上げた。
「そろそろ終わろうか」
日が昇る前に剣の鍛錬を終えていた秋斗から為された立ち上がりながらの言葉に、あと一つだけ、と矢を番えた。
僅かに乱れた心は弓術を行うには最大の敵。乱れを纏めようと息を静かに紡いでいった。
深く、深く、沈めた心は例えるなら水の底か、それとも真黒い夜天の芯に向けてか。
ピタリと呼気を止め、普段では見られないような、真剣な引き締まった表情で放たれた一筋の矢は……乾いた音を生み出した。
「うん、見事」
残心の動作の最中に聞いた優しい声音に、ほっと安堵を一つ。
柔らかく笑みを浮かべた月は、
「ありがとうございます」
また、彼にそう返した。
ふわりと、黒い外套を広げて羽織る。フードを頭に被せ、きゅっと首の前で紐を一結び。誰にも正体を知られぬようにと街で買っていたモノ。すっぽりと身体を覆う黒に僅かに見える白銀の髪は漆黒の夜天と銀月を映しだしているかのよう。
手を繋いだ。か細くて白い手が、大きくて力強い手と結ばれる。黒と黒の二人が歩く道は朝もやのなか少しばかり寒かった。
サクリサクリ、と音を鳴らして二人は進み、一頭の黒い馬の前に辿り着く。
艶やかな黒い毛並みに大きな体躯。額には三日月の紋様を浮かべた……嘗て秋斗と共に戦場を駆けた一番の相棒、名を月光。
するりと手を放した月は、さらに近付きその頬を優しく撫でた。
「ただいま、月光」
小さく細い嘶きが紡がれ、すりすりと甘える様はその大きな体躯でも愛らしいらしく、月は嬉しそうに笑みを返した。
対して秋斗は、月光には近づかない。じ……っと白銀の少女と月光のやり取りを見つめ、寂しげな眼差しを向けるだけ。
「じゃあ、お願い」
さらりと鼻筋を一つ撫でやって月が言うと、月光は脚を折った。まるで頭を垂れるかのように。
そうして漸く、秋斗は近づく。ジトリ……と月光から鋭い眼差しと怒気を向けられながら。
まず月が跨った。次に月光が立ち上がる。そうしてやっと、秋斗は乗る事が出来る。
ほっと一息。月と一緒に手綱を握り、嘗ての相棒であり、自分を主と認めない馬を走らせた。
月光は気位が高かった。
絶望の日まで、秋斗以外の人間を乗せようとはしなかった。主の命が危機に瀕した時だけ、徐晃隊の副隊長以下隊長格に跨る事を許す程度。
月光は彼しか乗せたくなかった。彼だけを主としていた。
聡い月光は今の秋斗を見抜いていたのだ。
街の厩で再会した時、月光は怒った
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