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月下遊歩
月下遊歩
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る。全ては月下に、全てが仄暗く青白く光を返し、その様はなんとも雄大で雅で、日本の美を彷彿とさせた。
流石に、この眺望はゆきの心を射止めたか、ゆきも俺の腕のなかですっかりこの景色に魅了されているようだった。
「どうだゆき。良い眺望だろう。」
「……うん。」
土手の傾斜に生い茂る、草原の端に居る俺とゆき。しばらくは眼下の光景を楽しんでいたけれども、俺は若草の絨毯の上へとそっと、ゆきを落とさないように腰を下ろした。同時にゆきを、胡坐を掻いた俺の股上へと座らせる。
「……ん。」
股上にすぽっと収まる。その後ろから、肩越しに両の腕をまわして、ゆきの胸元で交差させてぐっと引き寄せた。俺の胸元から首元辺りにぽすっと加わる、僅かな重みと温もり。それだけで、不思議と寒さは感じなかった。
「……しき。」
「ほら。」
俺が夜の秋空を指さす。ゆきもつられたように俺の指を追って空を見上げた。俺と一緒に空を見上げては、名月へと視線を通わせるゆき。前を見て、空を見上げる。
……ようやくだ。
「どうだ、今宵の月は美しかろう。」
「……」
時おり流れ来る雲の間を縫い縫い顔を覗かせる、中秋の名月の名に相応しい、今宵の満ち月。昨日のそれよりも一回りも二回りも大きく映るのは、今宵の雰囲気のせいか。それとも、本当に大きくなってしまったのか。青白く光り輝く名月は、眩しいくらいに俺とゆきの瞳にその姿を映し、叢雲すらも透かし、月影を散らす。
月に叢雲、花に風とはまさに、今の眼前に広がる光景にこそ言える言葉ではないか。
「……月、綺麗。」
「……ようやく、前を見てくれたな。」
「え?」
少々、驚いたような口調で俺の方へと疑問符を投げかけてくるゆきに、俺は胸元で交えていた右手を解き、ゆきの髪へと通した。黒くて長くて、強めな風に吹かれてもさらさらと下へ架かる髪を、一度となく何度も梳き通す。しばらく俺の方へと顔を向けようとしていたゆきも、やがて前へと顔を戻して再び、夜の空へと頭を擡げた。
月下に晒された黒い髪に映す、蒼然たる月影。髪に手を通しながら、左手は変わらずゆきの身体を引き寄せて、望月を見た。
「……こういうのも、いいね。」
「……」
ぽつりとゆきが漏らした、その一言。心が跳ね上がり、ゆきの身体を支える俺の手に力が篭る。目の前の少女を想う愛しさが込み上げては、溢れんばかりに心を満たす。思わず、顔をゆきの髪に埋め、きつく抱き寄せる。
「し、しき……?」
ゆきの……その一言が、俺にどれほどの悦楽をもたらしたかわからない。ただ、嬉しかった。だから、不思議と言葉が溢れてきたのかもしれない。
「……月、綺麗だな。」
顔をゆきの髪に埋めながら、俺もぽつりと自然に言葉を漏らした。ゆきが手を添わせる、ゆきを胸元で支える俺の手。触れた手が、俺の手に沿って添った。
「……う
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