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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十二話 貴人たちは溜息をついた
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すのかね?」
 官房総務課理事官ともなればそこらの准将とはことなる権限をもつ、由房が興味を示すのも当然であった。
「えぇそれに関しては少々長くなりますから明日に――」



「はぁ……」
大人達の会話からぽつねんと外れ、碧は小さく溜息をついた。
大人勢は喫煙室に河岸を移してあれやこれやと悪巧みなのか御国の為なのか分からない話をしている。
 ――あれではまるで官僚達の会議だ。
碧とて会話の内容が分からないわけではない、重要な事だという事も分かる。
だがこうも延々と続いているとなんとも自分が他愛もない良家の子女育ちである事を思い知らされているようで物寂しさと焦燥感が綯い交ぜになってしまう。
 兄も、もうあちら側に居るのだから。
「隣、いいかしら?」

「――御姉様」
 隣に座った茜に視線が向ける。
 寂しさ――というのなら自分よりもこの姉だろう、と碧は自身の不満を飲み込んだ。
北領であのような事になったのにまた送り出すのだ、その内心を察するに余りある。碧自身とて一度は死んだだろうと聞かされた身内を送り出して何も感じないわけもないのだから。
「碧も、もう聞いたかしら?豊久さんは――無事にいるそうよ」

「良かった――」
ほぅ、と今度は安堵の溜息が出た。敗走の途にあるとはいえ、無事の知らせはなによりの福音である。
 
頭に懐かしい手が乗った、姉の顔を見るとまるで子供を見るかのような微笑を浮かべている。
「……いいのよ、まだ子供で。こんな時に無理に背を伸ばすのはまだ早いもの」
 ――あぁ、もう!
 苛立たしげなのか、それとも満足したからか、どちらかは本人にも分からぬまま、三度碧は息をはいた。

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