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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十二話 貴人たちは溜息をついた
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と統治下の民草たちの権益を保護する為の存在であり、その役目が先にあり、それと同時に自身たちの生き残らなければならないのだ。
 駒城篤胤はそう信じていた。とりわけ太平の世にて〈皇国〉という概念が誰にも彼にも篤胤の目にも根付き始めてからは。
「さてどうしたものか馬堂は――使い方を間違わねば、駒州全体が強くなっているのだから、確と話し合っておけば今のところは問題ではない。余程方針をたがえぬ限りは向こうから離れたがることもあるまい」
 それでも、篤胤は漠然とした不安を抱えていた。裏切るような要素はない、あるとすれば――守原の策くらいだろう。だが守原家はそもそも政治工作を隠す風潮が薄い、馬堂を動かすほどに注力するなら篤胤にもわかる筈だ。
 内憂の芽を摘む事を目標とするのならば、現状はそれしかないだろう。佐脇はどうでもいい、直衛に不満を持っている層をつついているだけだ。所詮は馬堂を使う布石を兼ねた嫌がらせに過ぎない。

「あとは保胤――か。東州が最後と思うたが、あれを前線に出すことになるとは――俺もまだ甘いという事か」
 その時、誰かがこの悔恨に満ちた呻き声を聞いたとしても、保胤と新城直衛以外は誰もそれを篤胤が出した声だとは信じなかっただろう。それほどまでに親としての情に満ちていた。
「益満も居る、人を見る目もある、大丈夫だと思いたいが――」
 言葉を飲み込み、首を振って際限なく続くであろう想像を追い出す。どの道どうにもならない事で心労を背負い込む趣味はない。東州乱までの間、いくつもの内戦で万を超える軍を率いた篤胤はそうした精神管理の術と野戦軍の司令官が立ち向かうべき現実と言うものを心得ている。
 心得ているからこそ、保胤が心配なのであるが――どうにもならないものはどうにもならないのである。
 ことこうした時に(だけ)は手がかからないのがもう一人の息子である。
「直衛は――まぁ前線に居る間は放っておいてもなんかいい感じにアレしそうだからいいか」
 酷い、色々と酷い、まぁ信頼している証なのだろうが。
 だが政治の関わる余地が少ない前線に居るというのはある意味では都合がよいとはいえる。
「となると――馬堂の動向に注意を払う必要がある以外は概ね上手く回っている――か」
 内憂は尽きないが総体としてはどうにか成功を積み重ねられているといった事だろう。
外患については虎城に籠るしかないのだから、考えないことにしていた。冬までに情勢が動くかもしれないが、虎城に再集結が終わるまでは何を考えても無駄だろう。
「状況が動くのは全軍が虎城に集結してから――だな。守原も情勢がある程度落ち着いてから出なければ動けまい。あぁいやはや御国の危機と言うのに我らはなんともはや」
 かつては政治的魔術師とも謳われた駒城篤胤は人知れず溜息をつき、そしてふてぶてしい笑み
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