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アイスクリーム溶けるな
アイスクリーム溶けるな
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た。玄関にいるのに風呂場にいるような顔になっている。
「それでなんだ」
「アイス、気にしてなの」
「そうだの。まあとにかく買って来たからね」
「食べるってことよね」
「うん、じゃあ。今から」
「シャワー浴びてきたら?」
 だが、だった。二葉は彼にこう告げるのだった。
「汗流してから。すっきりしてからね」
「食べればいいっていうんだな」
「ええ、そうしましょう」
「それじゃあ」
 良行も二葉のその言葉に頷いた。そうしてである。
 実際にシャワーを浴びせ汗を流して二人でアイスを食べる。するとその味は。
「美味しいな、有名な店だけはあるよ」
「有り難う、わざわざ買って来てくれて」
 二葉は満面の笑みで向かい側の席に座っている良行に対して述べた。その笑顔には咎めるものはない。むしろそうしたものを完全に否定するような、そうした笑顔である。
「感謝するわね」
「いいよ、感謝なんて。それでも」
「それでも?」
「美味しいんだね、アイス」
「ええ、凄くね」
 満面の笑みで頷く二葉だった。そしてだ。
 彼女はだ。それと共にこうも言うのだった。
「だって。良行君が私の為に買って来てくれたし」
「買いに行かせたとかじゃなくて?」
「我儘聞いてくれたから。だから余計にね」
 そのせいもあるというのだ。そしてだ。
 彼女はだ。自分からこう言った。その声は優しい。しかも暖かい。アイスクリームが溶けるのではないかと思える位にだ。その声は暖かかった。それで良行に対して言うのである。
「今度は私が。良行君の我儘聞くね」
「じゃあ。今すぐにね」
「今すぐに?」
「アイスティー入れて。それで二人で飲もう」
 良行はにこりと笑って二葉に告げた。
「アイスクリームとよく合う。アイスティーをね」
「わかったわ。それじゃあね」
 笑顔で頷く二葉だった。そうして彼女も彼の我儘を一つ聞いたのである。我儘と我儘、他愛のない可愛いそれが出た真夏の日のことである。その日のことをである。良行はずっと覚えていた。そして夏になり二葉とアイスクリームを食べる度にである。そのことを思い出してそのうえで笑顔になるのだった。その時の彼の笑顔はあの時代の二葉のそれと同じくだ。アイスクリームが溶けるのではないかと思える程に優しく暖かいものになるのだった。


アイスクリーム溶けるな   完


                    2011・3・17
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