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図書館ではじまって
第五章」
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第五章」

「だからな」
「それがいいんですか」
「人と人の付き合いだからな。機械と機械ではない」
「じゃあ」
「ではだ。脇田君」
 実際に彼の名前を呼んでみせたのだった。
「今日は何の本を借りに来た」
「何の本をかですか」
「そうだ、何の本がいい」
「今日は借りるのじゃなくて」
「読みに来たのか」
「最近どうもですね」
 嶺浩は少し微笑んでからだ。栄美に話す。
「本に興味ができてきまして」
「それで読むのか」
「純文学を」
 それをだというのだ。
「織田作之助がいいと聞きまして」
「織田作か」
「織田作っていいますと?」
「織田作之助の通称だ。そう呼ばれているのだ」
「略してそれが仇名になってるんですね」
「そうだ。そしてだが」
「今その作家の本ここにありますか?」
 こう栄美に問う彼女だった。
「それは」
「全集がある」
「ああ、全集出てたんですか」
「今では入手困難になってるがな」
「それでもあるんですか」
「それでどの作品が読みたい」
「ええと」
 そう問われるとだった。嶺浩は難しい顔になる。
 そしてだ。彼は言うのだった。
「具体的にどんな作品がありますか?」
「それは知らないのか」
「いい作家とは聞きましたけれど」
 それでもだと。言外で言う彼だった。
「ですが」
「知らないのか、具体的な作品は」
「代表作は一体」
「夫婦善哉だな」
 それだというのである。
「まずはそれだな」
「夫婦善哉ですか」
「まずはそれだ。それに」
「それに?」
「私個人のお勧めは世相だな」
 彼にこうも話す。
「それもいい」
「世相ですか」
「そうだ、その二つでどうだ」
「それが守誠さんのお勧めですね」
「他にもあるがまずはこの作品がいいな」
「じゃあそれで御願いします」
 こうしたやり取りの後で実際に全集を倉庫から出してもらって読む彼だった。何時しか織田作之助についても詳しくなってきていた。
 それでだ。彼はこう栄美に話すのだった。
「何か本も」
「読んでみればいいものだろう」
「そうですね。思ったよりも」
「難しく考える必要はない」
 栄美は穏やかな笑みで彼に話した。
「簡単に考えてだ」
「それで読めばですか」
「それでいい。それでだ」
「はい、それで」
「図書館ばかりでは少し退屈になる」
 こう嶺浩に対して話す。そしてだ。
「今度外に出ないか」
「外ですか」
「本屋はどうだ」
 彼への誘いはそこだった。
「本屋にだ。行くか」
「えっ、それってつまりは」
「多くを言わせないでもらいたいな」
 デートとだ。はっきりと言いたくはないというのである。
「そこはな」
「あっ、すいません」
「謝る必要はない」
 そ
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