消失−わかれ
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思いにもよらぬ救済だった。
「……顔を上げてください真壁朱音さんだった人。俺はむしろあの世界からいなくなくしてくれた貴方のことを、とても感謝しています。あなたのためなら、俺はそこに行きます」
人はそれを逃避と呼ぶだろう。
大事なことから目を背けた自分を、臆病者と罵るだろう。
━━知ったことか。
俺は今そこにいることを望んだ。あそこにいることは望まない。これは分岐だ。新たな場所へ向かうことを、俺は選んだのだ。
『……ありがとう』
最後に真壁朱音の暖かくて、優しい声が聞こえた次の瞬間、一夏は意識を手放した。
◇
「なにっ?それは本当か!?」
世界のどこかに存在している竜宮島。その中枢に位置する“Alvis“にて、皆城公蔵は真壁史彦から聞いた話に驚きの反応を返した。
なんでも史彦の息子、真壁一騎がたまたま海岸沿いに倒れている少年を発見したらしく、現在はこの島唯一の病院、遠見医院に運ばれているらしい。
しかし、公蔵が驚いたのはソコではなかった。彼が驚いたのは、遠見千鶴が検査を行った結果にあったのだ。
「ああ、外見こそは完全な人間の男の子だが、ヤツらと綺麗に半分、融合してしまっているらしい」
それを聞いて、公蔵は険しい顔つきを作ってから空を仰ぎながら、ポツリと呟いた。
「我々人類の敵、“フェストゥム“か……」
◇
一夏が気が付いたとき、そこはドイツの路地裏ではなく、どこかの施設を思わせる医務室だった。
「どうして、俺はここに……」
さっきまで自分は確かに当てもなくどこかへとさまよっていたはずだ。
素直に家族の下へ帰ることすらできないでいた自分がなぜこのような施設で眠っていたのか、てんで見当が付かなかったものの、やがて混乱していた頭の中に徐々にだが記憶が戻り始めてきた。
織斑一夏としての記憶が、
喜びが、
苦しさが、
悲しさが、
嬉しさが、
楽しさが、
悔しさが、
辛さが、
家族が、
友達が、
幼馴染みたちが、
一夏の中を駆け巡っていっては、やがて一つにまとまり、新たな分岐と共に融合した。
それは、織斑一夏とは別の、もう一人の自分。
人類の敵となった母だった者の一端と一つになった自分。
母になってくれた者が持っていた希望を受け継いだ自分。
そのためにここにきた自分。
やがてすべてのピースが当てはまった次の瞬間には、医務室の扉が開いてそこから男性が二人と女性が一人、入ってきた。
入ってきたのは、遠見千鶴と皆城公蔵、そして真壁史彦だ。
「あっ……」
一夏は史彦の姿を視線で捉えたその瞬間、頭の中に
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