第1章 双子の兄妹
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兄妹
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た所に彼女の小さなハンカチが置き忘れてあるのに気づいた。彼はそれを恐る恐る手にとって、自分の鼻に近づけた。やっぱりバニラの香りがした。妹が座っていた場所に同じように座ってみた。彼女の温かさがまだ少し残っていた。そして妹が使ったカップを手に取った。彼女が口をつけたカップの縁にそっと自分の唇を押し当てた。ケンジの鼓動はますます速く、強くなっていった。
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その夜、ベッドで寝ていたマユミは、かすかな物音と人の声に気づいて目を開けた。それは隣のケンジの部屋から壁越しに聞こえてくる。「ケン兄、こんな夜中に何してるのかな……」
マユミは耳を澄ました。ベッドが軋む音とケンジの小さな声。小さな声で「マユ」と呟いているようにも聞こえる。
「えっ? あたし?」
マユミそっとベッドから起き上がり、音を立てないようにベランダに出てケンジの部屋の中を窺った。
「なに? ケン兄、具合でも悪いのかな……」
ベッド脇の小さなライトだけが灯っていた。その黄色い光の中でケンジはベッドにうつ伏せになって、両腕できつく抱きしめた枕に鼻と口をこすりつけながら喘いでいる。荒い息で彼は時折、確かに「マユ」と呟いている。目を凝らしてよく見ると、彼が鼻と口をこすりつけているのは、自分がケンジの部屋に置き忘れたらしいハンカチだった。やがて兄の腰が上下に激しく動き始め、掛かっていた薄いタオルケットがベッドから滑り落ちた。彼は黒の下着一枚という姿だった。それを見たマユミは焦ったように部屋に戻った。彼女の胸の鼓動は大きく、速くなっていた。
◆
8月1日。火曜日。
その日、県下の高校水泳部が集まる競泳の大会が開催された。
マユミの学校の女子部員は、男子バタフライのプログラムが始まると、こぞって観覧席の最前列に陣取り、スタート台に立つケンジに熱い視線を送ってきゃーきゃー騒ぎ合った。マネージャのマユミは、自分のチームの男子選手の記録を取るべく、プールサイドにストップウォッチを手に立っていたが、下からそのいつもの光景を見て、困ったような、それでも少し誇らしいような気持ちになっていた。
「もう……恥ずかしいったら……」
マユミは小さく独り言を言って、ため息をついた。
スタートのアラームが場内に鳴り響いて、選手は一斉に水に飛び込んだ。
最初のバサロですでにケンジは他の選手を圧倒していた。彼が頭を出した時には、もう半身以上の差をつけ、そのまま100m安定した泳ぎでトップを維持し、余裕でゴールした。
そんな接戦でもないレース展開にも関わらず、観覧席からは黄色い声がのべつ送られていた。ケンジを目で追う女子たちである。レースが終わって観覧席を見上げたマユミは、自分の学校の生徒だけでなく、他の学校からもたくさんの女子生徒がケンジの一着ゴ
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