泥を踏み抜き光を求む
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たらしいです。周りに人が居ないのを確認してたから郭図さんさえ生きていれば田ちゃんは助かるって分かって、とりあえずは死なない程度に苦痛を与えて城に運んでやるって……それから……」
斗詩は俯いてぶるぶると震えていた。涙さえ流れていた。明から、何をしたか全て聞いた為に。
そこから何をしたのか、麗羽には聞けなかった。その時に明がどれだけの殺意を抑えたのかも、分からなかった。殺したいほど憎い相手を生かさなければならない、抜け出す事の出来ない雁字搦めの糸の中で溢れそうな狂気が、どれだけ明の中に渦巻いているのか、麗羽には分からなかった。
「……田ちゃんは沮授様を助けたい、袁家の上層部と郭図さんに対する楔も含めて……牽制のし合い、口を封じて首輪を付けあった、というのが正しいと思います。ちょこちゃんは多分、やる時は躊躇いなくやります。最後の最後には田ちゃんの望みさえ無視して。ちょこちゃんの有能さも、恐ろしさも、どちらも分かっているからこそ。利用し合いながらも足を引っ張り合っているのは、そんな事情からです」
「夕さんが沮授さんの為に此処から抜けないと分かっていてそれをした、というわけですわね」
麗羽は空を仰いだ。
「ちょこちゃんを殺そうとすれば田ちゃんが感付きます。田ちゃんを殺そうとしてもちょこちゃんが気付きます。人質を取られながらもある程度自由に動けるのは、その二人の能力を買っている上層部が反発を恐れているからです。排除したくても返しが怖くて手が出せない、従っている内は確かに有効な力となる……だから二人は牽制と腹の探り合いの泥沼の中、周りに監視の目を盛大に置かれながらも、叛意は無い、とその後にずっと行動と結果だけで示してきたらしいです。対して、郭図さんへの上層部の信頼は、ちょこちゃんの暴走に耐えて首輪も付けられたからいつでも揺れる事は無かったらしいです。飼っていた狂犬の牙を知れた事が、上層部にとっては恐ろしくとも何よりの利であった、と」
涙が湧いてきた。袁本初の仮面の下から零れそうだった。
「わたくしは……夕さんと儁乂さんを……いえ、周りをもっと見ないといけませんでしたわ……そして……」
勇気を……と聞こえない声で溶かした。
自分の愚かしさを呪った。傀儡として全てを諦観していた自分が知らなかった事実を聞かされて悔いた。
しかし麗羽はまた、心を高めていく。
死ぬのは怖い。怖くて堪らない。でも……救いたい、と思った。幸せにしてやりたいと願った。どうすればいい。そう、簡単な事だった。
「斗詩さん」
幾分かの沈黙の後、名前を呼ばれた斗詩は顔を上げる。
翳りのある表情で、されども目に強い輝きを宿した麗羽が其処には居た。彼女がふっと漏らすは自嘲の微笑み。
「わたくし、この間地方外交に向かった時に耳
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