暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
泥を踏み抜き光を求む
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くでしょう。欲を持った人間というのは、甘い蜜をある程度約束すれば従いますし、儁乂さんを敵に回す事の恐ろしさはあの方々が一番知っているはず。そうすれば漸く……わたくしの……“麗羽”としての一歩が踏み出せる。

 そう考えると、グッと心に火が灯った。
 希望的な思考は、夕が忠誠を誓ってくれたからこそ出来るようになった。
 死への怯えは、振り払う事は出来ない。されども、己が望む生への活路を見出す事は出来る。
 なんと心強い仲間か。目の前の二人は心の柱。そして夕と明は、麗羽にとって希望の光だった。さながら夜明けを知らせる日輪の如く。
 思考と会話の二つを成り立たせていた麗羽は、ふと、聞いてみたい事が出来た。

「お二人は夕さんの悲劇はご存じ?」
「田豊の、ですか?」
「……わたし……ちょこちゃんから聞いてます」
「ええっ!? いつの間に聞いたんだよ斗詩!?」
「幽州の戦の時に。文ちゃんに話したら怒って何かするかもしれないからって内緒で」
「うっわー……明の奴ひっでえなぁ」
「ふふ、猪々子さんの性格を把握してこそ、ですわね」

 麗羽の言う通り、猪々子が聞けば、郭図に対して悪感情を向け兼ねない、と斗詩はうんうんと肯定を示す。自分でさえも、聞いたその時は顔を見るのも嫌になったのだから、と。

「どうしてまた?」
「いえ、さすがに夕さんには直接聞けるわけもないですし、その……少しでも彼女の詳細を知っておこう、と」

 不思議そうに首を傾げた斗詩に、麗羽は次第に消え行く声音で答えた。もじもじ指を絡め、顔を赤らめて、麗羽は願う。
 己が王佐の悲劇は耳に挟んだ程度。母を人質に取られている、とは聞いているが、どういった状況で、どのようになされているのかは聞いていない。
 沮授の事は麗羽も知っている。古くからの忠臣であり、上層部でも数少ない常識人にして今は勢いが衰えた中庸派閥代表。そして嘗ての筆頭軍師。病床に伏したのも心労がたたってだけだと思っていた。
 麗羽が今まで見せる事のなかった仕草に、猪々子と斗詩は一寸呆気にとられるも、二人共がふっと優しく微笑んだ。

「文ちゃん。ちょっとだけちょこちゃんの所行っててくれる?」
「はぁ? なんでだよ。あたいが聞いちゃいけないってのか?」

 斗詩の哀しげな目を見ても、自分だって聞くぞと言い張る猪々子。

「ダメ……なんだ、ホントに。お願い」

 ぎゅうと眉を寄せて必死の懇願。猪々子はやれやれと頭を掻いて、ため息を一つ。

「むー……斗詩がそこまで言うんなら……我慢するけどさ。けどいつか絶対話してくれよな! あたいだってあいつの友達なんだから!」

 一言残して立ち上がり、斗詩が頷いたのを見て、猪々子は寂しげながらものしのしとその場から離れて行った。
 ほっと息を一つ
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