泥を踏み抜き光を求む
[4/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ですよーっ!」
「もう、ふふっ、あわてんぼうなんだから」
ぶんぶんと椅子から立ち上がった途中で机で身体を打ちつつも元気よく手を振る猪々子と、心配しつつまるで母親のように笑う斗詩。
麗羽の微笑みは張り付けられた仮面では無く、心に来る温かさから自然なモノであった。
「ちょっと猪々子さん? わたくしとのお茶会が嬉しいのは分かりますが、もう少し気品というモノを身に着けて落ち着きなさいな。そう、華麗にして高貴なわたくしのように」
歩み寄りながら、よろしくて? というような呆れの吐息。腕を優雅に組んでたわわな胸が強調される。
「そうだよ? 文ちゃんはがさつな所とかもうちょっと直さなきゃ」
「えー、だって堅苦しいの苦手だし」
同じく微笑みながら優しく嗜める斗詩は麗羽の椅子を引き、口を尖らせて不足を示す猪々子と共に、麗羽が腰を下ろしてからそれぞれの席に着いた。
「ふふ、まあいいですわ。斗詩さん、お茶を」
「はーい」
「あ! あたいの分も!」
「ふふっ、はいはい」
猪々子と斗詩の二人は、言葉遣いも態度も砕く事を許されている。二人が麗羽とそのように仲良くなったからこそ、上層部にとっては麗羽に対する牽制として役に立っているのだが。
傀儡は無能こそ望ましい。されども、麗羽は頭が良かった。私塾時代では華琳よりも優秀で、一番の成績を収めている程に。
華琳の奇抜な発想や飛び抜けた才能を教育者達が評価出来なかったのが理由であれ、頭のレベルがある程度上の者達が集められるはずの私塾で一番になるというのは、並大抵ではありえない。つまり、麗羽は秀才タイプなのだ。
だから上層部は縛った。万が一、改革などとのたまわないように。家のやり方の継続を望み、裏で牛耳っている。
上層部は恐れている。変革を恐れ、自身の立場の崩壊を恐れ、ぬるま湯の居場所が壊れる事を恐れ……新しい風に吹き飛ばされる事を恐れている。
時代は巡るモノであるのに。新たな世代が未来を切り開いていくのは世の常であるというのに。
愚かしい……と麗羽は感じていた。己が真なる王佐と、両腕と言える二人の親友、人の昏きを隅々まで知るモノを味方に得てから、まざまざとそう感じていた。
臆病な己に対して愚かしさを感じている。自分の命が、彼女は大事であった。名誉も栄光も誇りも何も、生きていてこそ。
命を投げ捨てるは容易では無い。誇りの為にと命を賭けられる白蓮や華琳が、麗羽には眩しくて仕方ない。
怖いのだ。彼女は。死ぬのが心底怖い。仮面を被ってでも居場所に縋りつこうとするほど、彼女は死への恐怖が刷り込まれている。
人として、否、生物として当然の欲求。生への渇望からは逃れられなかった。
誇り無い、と彼女の本質を知った人は言うだろう。それでも彼女は生きてい
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ