泥を踏み抜き光を求む
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でさえ天国に連れて行って――――」
「このっ……いい加減にしろクソ女ぁっ!」
「うおっ! ぐへぇっ!」
あまりのしつこさに、プツン、とぶちぎれた明は足を払い、猪々子を床に引き倒した。揉んでいた手を極めて、受け身も取らせずに。
背中を打った猪々子は呼吸が出来ず、短い呻きを上げるのみである。
「このあたしにあんな事するなんていい度胸じゃん。あんたの勇気に免じて、しばらくオイタ出来ないように恐怖を刻み込んであげる」
ハイライトの消えた瞳で笑う口元は引き裂かれていた。猪々子は冷や汗がじわりと額に滲む。
明は……傍に落ちていた箸を手に取り……
「や、やめっ、な? やめようぜ……うあ、ああ……アッー!」
猪々子の二つの穴に突き刺した。
鼻を真っ赤にして涙目の猪々子は、廊下を明と歩いていた。ククク、と腹を抑えつつ未だに悶えそうになっている彼女を見て、猪々子はぶすっと一言。
「何もあの場にいる全員に見せつけなくてもいいだろ?」
「ひひ、猪らしい姿になれて良かったでしょ?」
「だからって……まだ鼻痛い」
コスコスと摩る。突き抜けなくて良かったと、心の底から安堵して。
「っていうか、なんで付いてくんのさ。あたし、この後も練兵とかで忙しいんだけど」
「あたいは暇だ」
「うざい、失せろ」
「あーあ、ホント明はひっでぇなー」
にししと笑った。突き放されながらも、猪々子は決して離れない。歩く速度を速めても遅めても、ピタリと立ち止まっても、ずっと明の隣に並んでくる。
ため息を一つ落とした明は、すっと目を細めて……急な動作で彼女の身体を壁に押し付けた。
「っ! ってぇな……なんだよ?」
鼻先がぶつかりそうな距離で殺気を込めて睨みつけてきた明に、猪々子はかみつくように犬歯を見せた。
「そういうのうざいって言ってんの」
「暇なんだからあたいはあたいのしたいようにする。お前の指図なんか受けてやんない」
「……めんどくさい奴」
「ふん、お互い様だね」
凍りつくような瞳を跳ね返し、猪々子はまた笑う。
何処か前とは違った強さを猪々子の中に感じた明は、爛々と輝く瞳を直視出来ずに目を逸らした。
「猪々子……徐州で何かあった?」
過程を脳内で組み立てた明は、身体を離して問いを投げやる。
ぽりぽりと鼻を掻いた猪々子は俯いて、くくっと小さく笑った。
「……なんかさ。あたい、おかしいんだ。明は死んでも誰かを守りたい。あたいは生き抜いて誰かを守りたい。どっちも似てて、やっぱり違う。違った……はず、なのにさ。姫とか、斗詩とか、明とかの為なら最後は……って、最近になって思えてきちゃったんだ。この気持ちが何か分かんないから、おかしくなってるんだと思う。
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