暁 〜小説投稿サイト〜
ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜
錬金術師の帰還篇
35.水精の剛硬
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声は聞こえていないようだ。

『彩斗を助けたい?』

 再び、少女の声が訊いてくる。

「はい。助けたい、でした。私にできることがあるならなんでもします!」

『あり……とう。あなたの血を……彩斗に……えて……」

 少女の声が途切れていき、もう聞こえなくなった。
 その言葉が真実かどうかはわからないのだ。
 それでも彩斗を助けることができるなら夏音はなんでもする覚悟だ。彼は夏音を何度も助けてくれた。今度は自分が彩斗を助ける番だ。

「……血を」

「……血?」

 友妃が予想外の言葉に声を洩らした。
 夏音は記憶のどこかで彩斗を救う方法がわかっていた。
 甲板に落ちていた銀色に輝く刃に目線を落とす。それは雪菜が先ほどまで持っていたナイフだ。
 それを握りしめ、夏音は銀色に輝く刃を腕に当てる。

「夏音ちゃん!?」

 友妃が驚愕の声を漏らし、止めようとするが、制止を振り切って刃を横に動かした。
 わずかな痛みが夏音を襲う。透き通るような白い肌に赤い線が浮かび上がる。そこから鮮血が滴ってくる。
 夏音はそれを口へと含んだ。口内に鉄の味が広がる。

「彩斗さん……」

 夏音の頬が紅潮していく。
 そして自らの唇を意識を失っている彩斗の唇へと押し当てる。そこから彼の口内へと鮮血を流しこんだ。
 それは人工の天使“模造天使(エンジェル・フォウ)”に夏音がなり、古城と彩斗を傷つけてしまったときに雪菜とラ・フォリアが助けた方法だ。
 自らの血を口に含み、それを相手の口内に流し込む。それが彩斗を助ける方法だ。

「んっ……!?」

 今まで意識がなかった彩斗の身体が動き出した。
 夏音の身体を荒々しく抱きしめ、無抵抗になった夏音の唇へと強く重ねてくる。夏音の口内の血を一滴残らず味わい尽くすような、長い長いキスだ。初めてのキスとしては刺激的すぎる。
 強張っていた夏音の全身の力が抜けていく。
 夏音の匂いに惹かれるように、彩斗が彼女の白い首筋へと牙を突き立てた。

「あ……」

 夏音の声が震える。背中に手を回し、痛みと恐怖、そしてわずかな快楽のような複雑な気持ちのままそれでも微笑みかける。

「彩斗さん……」

 きつく目を閉じて夏音の唇から、かすかに吐息が洩れる。




 緒河彩斗が叶瀬夏音の首筋に牙を突き立てた。
 その光景を見て不愉快な気持ちになってしまう逢崎友妃がいた。
 夏音の首筋から牙を抜いた彩斗。しかし彼は目を覚まさない。強力な霊媒である夏音の血を吸っても彼が負った負傷は深いのだろうか。

「彩斗君……」

 それはまるで彩斗自身が目を覚ますことを拒んでいるかのようにも見える。

「え……?」

 そこで友妃はなにかがおかし
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