魔石の時代
第三章
世界が終わるまで、あと――1
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下手に『マーリン』の腕など見られれば、延々と追い回される羽目になっていたに違いない。折角自由の身になったのだ。逃亡生活に逆戻りは遠慮したい。それに、そんな事になったら自分の使命を果たす事も難しくなる
だろう。もっとも、この時点での偽装魔法はあくまで幻惑に過ぎない。それも、大して質のいい幻惑ではない。触れられればそれで終わりだ。……とはいえ、そんな緊張もそれほど長くは必要なかったが。
これは、その理由となった出会いについての――その最初の記憶である。
構成員に案内されたのは、サンクチュアリの総本山だった。もっとも、鬱蒼とした森の中に、今にも壊れそうな粗末な小屋が立ち並ぶそこは、自分が育った――今まで見てきた他の隠れ里と何が違う訳でもなかったが。それも当然だ。大きな集落を作れば、マーリンに狙われる。案内してくれた構成員によれば、少しでも生存率を上げるよう、小規模な集落を何ヵ所かに分散させているらしい。あまりにもちっぽけな抵抗だが――そのちっぽけな抵抗こそが旧世界が滅んでから数百年間、人間が生き延びた理由なのだろう。
そこで、自分はゴルロイス……今代のゴルロイスと謁見する事となる。驚いた事に、今代のゴルロイスは女だった。いや、それ自体は驚くべきことではない。ただ、彼女は自分よりもまだ若い少女だった。
「先代のゴルロイス様は、若くして魔物に襲われ亡くなられましたから」
聞くところによると彼女は、先代ゴルロイスの妹の子であるらしい。ゴルロイス自身の子は、集落が襲撃された際――つまり、ゴルロイス自身が命を落とした襲撃の際に、行方不明となったらしい。結果、唯一残ったゴルロイスの血統が彼女だったという。
「あまり良い事ではありませんが……」
愁いを帯びた顔で彼女は言った。やはりゴルロイスの血筋というのは、重要な意味合いを持つらしい。
本当に必要なのは血筋や身分ではなく、意志である。ゴルロイスという名前と共に受け継がれてきたその信念こそが本当に必要なのだ。今度はただ神に祈るのではなく、人の想いを――希望を未来へと繋いでいく。それが私の使命だと。彼女は、そう言った。
それの言葉を聞いて、自分は安堵していた。あるいは、右腕に宿る恩師とその相棒の安どだったのかもしれない。
世界が終わったとしても、受け継がれる意思はある。今ここに、確かにあると。
二十一代目ゴルロイス――エレイン・カムラン。彼女がその『名』を継いだのは偶然だったのかもしれないが……それでも、彼女の意志は今もなお生き続けていた。
2
ついに管理局に感づかれた翌日。窓越しに陰鬱な曇り空を見やり、私はため息をついた。アルフと光は、使っていない空き部屋で何かしている。私も手伝おうとしたけれど、力仕事が主だからという理由で断られてしまった。
(どうしちゃったのかな…
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