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その魂に祝福を
魔石の時代
第三章
世界が終わるまで、あと――1
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 これはリブロムに記されたかつての自分の物語。その始まりであり、滅んだ世界の終わりの記憶である。
 新世界が始まってしばらくの間。自分は世界各地を転々としていた。
 各地に残された魔物の排除や救済。自らの使命を果たすための手段の捜索。そして、世界の復興。目的はいくらでもあったが――問題があった。もちろん、どこを見回しても問題と障害しかないような有様だったが、それとは別だ。
 具体的に言えば、自分の右腕。マーリンの魂を受け継いだその腕は、その結果彼と同じ異形の腕へと変化していた。とはいえ幸いマーリンを……かつて世界を救った彼を苦しめた老化の呪いは自分には生じなかった。その理由は、いくつか思いつく。もっとも、確証を得る事は出来なかったが――それでも、これはジェフリー・リブロムの加護だと信じている。意志の力で、自らの肉体を作り変えた彼の力は、今もこの身体に残っている。自分が望む限り、この姿を保ち続けるだろう。
 とはいえ、この右腕は問題だ。何せ、これは世界を滅ぼし、牛耳った悪名高い『マーリン』の右腕なのだから。マーリンの人相は知らずとも、この腕は有名すぎる。迂闊に人里に近づこうものなら、死に物狂いで逃げられるか――最悪、玉砕覚悟で攻撃される。まずはこの腕を誤魔化す必要があった。
 もっとも、それ自体はさほど難しい事ではなかったが。何せ、自分には全ての魔法が記された魔法大全が宿っている。もっとも、今は忘却を防ぐべく『奴ら』の知恵と力もろともに右腕の奥深くに封じ込めているが――ああ、そうだ。これもいずれ何らかの形でどこかに記憶しなければなるまい。歴代ペンドラゴンが受け継いできた人類全体の『知の総体』であり、生の痕跡……いわば希望だ。自分もこれを誰かに語り継がなければならない。その方法も、一つだけ構想があった。それはいずれ形にするとして――今はまずどうにかして右腕を誤魔化さなければならない。そして、言うまでもなくその方法はあった。
 幻惑魔法を応用する事で、右腕をただの魔法使いの腕に見せかける事に成功した。この後に改良を加え――偽装魔法と呼称を変えたそれは、触れられても分からない程になる。自分の永い生涯の中で、最も多用した魔法だろう。このおかげで、人間にまぎれて生活する事が出来るようになった。
 それが、新たな出会いへと繋がっていく。
 魔物の排除と救済をしながら世界に点在する小さな隠れ里を巡っていると、そこで彼女達と出会った。
 信仰組織――いや、救済組織サンクチュアリ。
 世界の終わりを生き延びた唯一の魔法結社。その組織は、どうやら自分の噂を聞き付けてきたらしい。『マーリン』の瘴気が消えた頃から、妙に腕の立つ魔法使いが魔物を排除、救済しながら各地を転々としている。そんな噂になっているようだ。
 やれやれ、右腕を隠しておいて正解だった。
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