願いの刃は殻を割く
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街の午後は暖かい。活気に溢れ、人の声は満たされている。
そんな陽だまりの日常の中で、二人の少女は一つの家を訪れていた。
コンコン、とノックを鳴らすも、それは城でしか通じない彼が与えた知識のカタチ。
民にまで浸透しているはずが無かったと気付いて、あわわっ、と口を押えた雛里は、誤魔化す為か急いで帽子を下げた。クスクスと隣で桂花が笑った時……カチャリ、といきなり扉が開いて、桂花は驚いて飛び退いてしまい雛里に笑い返される。
「これはこれは鳳統様と荀ケ様……なんで俺の家なんかに?」
普段着として民の衣服を身に纏っている一人の男。彼は鳳統隊の第三部隊の長。名前は……いや、彼らの名は語るまい。
部隊長とはいえ兵士の家に軍師二人が訪ねてくるは異常なこと。疑問を零すは尤もであった。
「こ、こんにちゅ、こにちはっ……あぅぅ……」
「ほら雛里、深呼吸しなさい、深呼吸」
緊張と気恥ずかしさから噛んでしまった。桂花に促された雛里はすーはーと三回、腕を合わせて振りながら大きく息を付く。
愛らしい雛里の仕草や、姉のように振る舞う桂花の掛け合いに笑いそうになる部隊長であったが、それではまた噛んでしまうのを知っている為にどうにか笑いを噛み殺して待った。
「……も、もしよろしければ、娘さんのお顔を拝見させて頂けない……でしょうか……?」
茫然。
一寸の静寂の後に、部隊長はフルフルと震え始める。ギョッと目を見開くも、二人は返答を待つ事しか出来ない。
「……まさか鳳統様や荀ケ様みたいな才女が俺の娘の顔を見にきてくれるなんて……頭でも撫でて貰えば末は天才になるかもしれねぇ……やべぇ……想像したら泣きそう……」
言いながらも、既に嬉し涙を零していた。
汚い家ですが、とグシグシと袖で涙を拭き、扉を大きく開けて二人を中へといざなった部隊長。桂花はほんの少しだけ男の兵士の家に入ることに対して怯えるも、きゅっと拳を握って足を踏み入れた。
「おいっ! 聞いて驚け! 軍師様お二人が娘の顔を見に来て下さったぞ!」
寝室の扉を開き、歓喜の声を上げて滑り込んだ彼は、寝台の上で身体を起こして服を繕っていた妻に寄ろうとして、
「静かにしな、バカ」
ジロリ、と厳しい瞳で睨まれた。その隣では……乳飲み子がすやすやと眠っていた。
慌てて両の掌で口を押え、起きなかった事にほっと一息。雛里と桂花は妻の冷たい声に固まり、部屋の中の赤ん坊を見て、同じように吐息を溶かす。
「いらっしゃいませ、軍師様方。尋ねて頂きありがとうございます。生んだばかりで体調が少し……ですので、伏したままの無礼、お許しください」
頭を下げられた。妻が話しているというのに、返答で起こす事を心配しているのか、二人は口に手を当ててコクコ
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