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乱世の確率事象改変
願いの刃は殻を割く
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あの人と仲が良かったのか、徐晃隊と絆を繋いで来たのか……心を痛めて、部下を戦わせてきたのか、と。
 必死で戦ってる徐晃様方を、心から支えたいって、やっと思ったんです」

 愚かでしょう、というように、彼女は懺悔の視線を雛里に向ける。
 雛里の胸がズキリと痛む。徐晃隊の妻と言えど、民の想いを直接聞かされたのは、初めてだったから。
 彼が子供を見る為に訪れて、直接聞いていたなら、少しでも心が安らげただろうに、とも感じて。
 ただ、後に続く言葉は、雛里の予想だにしないモノであった。

「だから……“子供は私が守りますので、夫をよろしくお願いします”と次に会った時、徐晃様に伝えて頂けませんか? 私も平穏な世を作る一人に加えて欲しいのです。徐晃様を慕うあなたに、徐晃隊部隊長の夫を持つ私の想いを伝えて欲しい」

 優しく微笑まれて、雛里は泣きそうになった。

 嬉しかった。
 彼を憎んでいた、という人がそう言ってくれて。
 哀しかった。
 彼にはもう、その想いを届けられないから。

――嗚呼、あの人は確かに世界を変えていた。繋いで繋いで、平穏な世を目指す意思が広がっていく。哀しい乱世を切り拓く強さを、誰かに与えて行く。いつでも彼は変わらない。

 部隊長の妻のように、憎しみを昇華できるモノは少ないだろう。部隊長が死ねば裏返ってしまうかもしれない。
 それでも雛里は、彼の心が彼女の世界を変えたと思いたかった。普通の部隊で兵士をしていたら、もっと早く死んでいたかもしれない。突然訪れた別れに絶望し、他の者を憎んで怨んでいたかもしれない、と。
 何よりも、少なくとも徐晃隊の者達は、彼らの大切なモノ達が憎しみに染まる可能性を僅かでも減らしているのだと、そう思えた。
 近しいモノの喪失という絶望への危機を事前に知らせ、予防線を張って生きる力を残させる。自分を憎めばそれが生きる糧にもなる。彼は人を奪いながらも、先の世に一人でも多く生きて欲しくて動いていた。

「男ばかりにさせてあげるもんですかっていう女の意地です。徐晃様と夫は乱世に咲く想いの華を平穏な世に繋ぐのですから、私達は想われて芽生えた新芽を平穏な世に繋ぎ咲かせる、なんてどうでしょうか」

 子供を愛おしげに見つめて嬉しそうに語られると……雛里の心の殻から想いが溢れそうになった。

――私も……彼と……

 ぎゅう、と膝の上に置いた帽子を握りしめた。
 今すぐにでも此処を飛び出して、彼の元へと駆けて行きたい衝動が胸を埋め尽くしていく。
 どれだけ顔を見ていないだろう。どれだけ声を聞いていないだろう。どれだけ……思い出の中の彼だけで満足してきただろう。
 言ってしまえばたったの二月強。雛里にとっては、遥か昔に感じる程であった。

――私を知らない“秋斗さん”な
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