願いの刃は殻を割く
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くと頷くだけ。
「どうぞ、見てやってください」
部隊長の言葉を受けて、静かに、なるたけ音を立てないように近付く。その子供っぽい行動に、部隊長も妻も苦笑を零した。
「くくっ、珠のような子とはこの事です。俺の子とは似てもにつかねぇと思うんですが、目尻とか口元とか似てるなってよく言われるんでさ。ほんっと最高に可愛くてもう将来は美人に――――」
「自慢したいのは分かるけど声が大きいっ」
「ぐへっ……いいじゃねぇかちょっとくらいよー……」
静かに怒鳴る、と器用な事をする妻に頭を叩かれ、拗ねたようにいじける部隊長の姿は子供のよう。
笑いを堪えてさらに抜き足差し足……寝台のすぐ側に着いた二人は……じーっと、赤ん坊の顔を覗き込む。徐々に、徐々に頬が緩んでいった。
「わぁ……」
「か、可愛い……」
そう言う二人も可愛いです、とはさすがに部隊長夫婦は言えず、赤ん坊をうっとりと眺める彼女達を微笑ましげに見つめるだけであった。
さんざ眺めた後、二人は部隊長と共に隣の部屋の机に付き、雛里と桂花が持ってきたお茶とお菓子を前にしていた。
「で? なんでまたウチの子が見たくなったんで? 軍師様方の休日にとやかく突っ込むつもりはありませんが……」
当然の疑問。親バカ故にそのまま家に上げて娘の姿を披露したが、まず初めに聞いておくべきである。勢いに流されて説明をしなかった二人も二人だが。
コトリ、と湯飲みを置いた雛里は、ほんの少し悲哀を瞳に浮かべる。
「“秋斗さん”が……気に掛けていましたから……」
「……ああ、なるほど。手製のおもちゃとか……俺があの人の真似しても意味ねぇしなぁ……」
今まで出るはずの無かった真名が出た。ずっと、聞かなかった真名が耳に入った。彼からちゃんと祝って欲しかった。だから部隊長は泣きそうになった。
部隊の誰かが嫁を娶れば、家族同然に喜び、部隊を巻き込んでサプライズになるような祝福をする。子供が生まれれば、隊の全員で少しずつ給金を看破して祝いの品や祝い金を贈ったりもする。
そんな深い繋がりが、彼が居た時から出来上がっていた。想いの絆は縦に横に、生死を共にする皆の心が一つになれるように、彼は兵士達と心を繋いで来た。
名前を覚える、平穏な暮らしでの幸せを祝う――そういった細やかな行動の積み上げも、彼らの心を大陸でも類を見ない程の狂信にまで堕とした理由の一つ。
彼らにとって秋斗は主であり、家族であり、憧れであり、友。年齢の区別なく、身分にも生まれにも拘らず、只々、彼が皆の幸せを願ってくれるから、命を賭けて共に戦い、背中に憧れ、追い縋り、死ぬ時に想いを預ける。
そして、自分達の幸せを願ってくれるせめてもの返しとして、彼が自分達の死で悲しまない為に、幸せだっ
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