第十三章 聖国の世界扉
第一話 差し伸ばされる光
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では、このままでお聞きしますが、あの手紙に書かれていたことは、一体どういう事でしょうか?」
「早速核心からですか……そう、ですね」
顎に手を当て何やら考える姿勢を見せたヴィットーリオだったが、直ぐに顔を上げると、美しい顔を悲しみに染めながらアンリエッタに問い掛けた。
「聡明なあなたです。既にこの国の矛盾についてはお気づきの筈です」
頷くように、アンリエッタは視線を下げる。
「“光溢れる国”と謳いながらも、この国の何処にもそんな姿はありません。人を救い導くはずの神官や修道士たちは、自分の利益の事ばかり考え、本来、我々がすべき事である救い導かなければならない筈の、助けを求める貧民たちのことなど見向き気もしない。わたくしなりに色々と手を尽くしたのですが、やはり限界があります。主だった各宗派から荘園を取り上げ、大聖堂の直轄にしましたし、各寺院には救貧院を設営させ、一定の貧民を受け入れることを義務付けました。他にも、免税の自由市をつくり、安くパンが手に入る事が出来るようにしました。色々と言いましたが、結局のところ焼け石に水です。目に見える変化までは起きていません。まあ、そのお陰で、恨みは多く買いまして、最近では神官の間で新教徒教皇などわたくしを揶揄する輩が現れる始末です。まったく、失礼な話です。一体だれが新教徒なものですか。新教徒など、自分の利益の事ばかり考えている輩です。そんな輩の教皇など、考えたくもありません」
「ご謙遜を。目に見える変化はないと言いますが。聖下のご尽力を、わたくしは目にしております」
労わるように、アンリエッタは微笑む。
先程の難民たちなどその典型だ。
確かに、まだまだやることは多く、超えるべき課題は数多くある。しかし、それでも、この教皇の手により助かった貧民の命は、今までで数千を超えるだろう。それは確実だ。
「ありがとうございます。ですが、まだです。やらなければ、成さなければならないことが数多く残っています。ですが、限界なのです。これ以上神官たちから権益を奪おうとするならば、、彼らは自分たちの欲のため、わたくしを教皇から引きずり下ろすため、確実に内乱を起こします。それだけは、絶対に避けなければなりません。ブリミル教同士が争うことなど、絶対にあってはならないのですから。とは言え、わたくしがいくら努力したとしても、現状のように限界はあります。争いの切っ掛けは多くある。それこそ無数に。教義の違い、住む場所、貴賎に何らかの利益……無くそうと努力しても、決して無くすことは出来ない。ほんの些細な事が切っ掛けで、人同士が殺し合う。人は皆、神の御子だと言うのに……これ以上に愚かしいことなどありません」
―――ああ―――また―――止められなかった―――。
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