第十三章 聖国の世界扉
第一話 差し伸ばされる光
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来るまで執務室の前にある謁見待合室において時間を潰していた。待合室で待機している閨Aジュリオはホストとしてアンリエッタに退屈を慰めようと様々な話をした。確かにその間、アンリエッタの口元から笑みが消えることはなかった。
その顔に浮かんだ―――冷ややかな笑みを。
待合室で待つこと三十分。勢い良く執務室の扉が開く。中から出てきたのは、外国の外交官や高位の神官等ではなく、上等な代物ではないが、手入れがされている小奇麗な服を着た五歳から十歳程度の子供達の姿だった。執務室から出てきた子供達の中で、一番年長だろう少年が、身体を回して執務室に顔を向ける。周りの子供達も、それに合わせくるりと執務室に向き直った。
「「「「せいか、ありがとうございました」」」」
年長の少年に合わせ、一斉に子供達が頭を下げる。
執務室にいる教皇聖下に頭を下げると、子供達は踵を返し走り出す。扉の前に立つアンリエッタの横を、子供達は笑いながら駆けて行く。きゃっきゃっと笑い合い駆け去る子供達の後ろ姿が見えなくなるまで見送ったアンリエッタは、顔を前に戻すと、隣に立つジュリオに視線を向ける。
「それでは、我が主が中でお待ちしております」
ジュリオに手を差し向けられ、アンリエッタは執務室へ足を踏み入れる。執務室へと足を踏み入れたアンリエッタは、そこに広がる光景に感嘆の溜め息を漏らした。
ブリミル教最高権威者である教皇の執務室は、アンリエッタの想像とは違っていた。
まず最初に目に入ったもの。
それは本。
執務室の壁一面に並べられた本棚には、隙間もないほど無数の本が収められている。
チラリと視線を巡らせたアンリエッタは、困惑を示すように微かに眉根を寄せた。数え切れない蔵書のタイトルを見るに、どうやら宗教書だけではなく、戯曲や小説、中には滑稽本だと思われるものもある。中でも特に目に付くのは、歴史書や博物誌だ。軽く視線を巡らしただけでも、そのほぼ半数が歴史書と博物誌が占めていた程である。アンリエッタの視線が、執務室の真ん中近くに設置された大きな机に向く。机の上には、乱雑に本が散らばっている。十冊ほどある本。それは全て同じタイトルであった。つい最近、ロマリアの宗教出版庁が発行した“真訳・始祖の祈祷書”である。その内容は、真と書かれていながら、何処かで見たような始祖の偉業が記された本だ。
その『聖なる本』を片付けているのは、髪の長い二十歳程の青年。
一瞬、教皇の秘書か召使かと思ったアンリエッタだが、机の上の本を集める青年の、その垂れた髪の隙間から覗く横顔を見て、直ぐに気付いた。
「随分と、可愛らしいお客さま、いえ、生徒さんたちですね―――教皇聖下」
「これはアンリエッタ殿。すみませんが、少々お待ちしてもらってもよろしいですか。直ぐに
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