第十三章 聖国の世界扉
第一話 差し伸ばされる光
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が、胸の前で両手を交差させる神官式の礼を見せた。アンリエッタは馬車の中からその様子を伺いながら、内心で小首を傾げた。到着したというのに、ドアを開ける者が来ない。これは暗に自分で開けて出て来いと言っているのだろうか? とアンリエッタが考えている間にも、事態は動いていた。何処からともなく現れた聖歌隊が、玄関前に集まると、指揮者の杖が振られ、歌声が響き始める。賛美歌だ。どうやらドアを開けなかったのはこう言う理由があったからなのだろう。
さっさと外へと出なくて助かったと、内心で冷や汗を掻きながらも、アンリエッタは、まだ声変わりもしていない少年たちの声に耳を傾ける。目を瞑り、歌声に身を委ねるように力を抜く。ふと、ゆっくりと瞼を開く。どうやら歌が終わったらしい。澄んだ歌声に、長旅の疲れを癒されたとリラックスした表情を浮かべながら聖歌隊の面々を見やる。
その時、聖歌隊の一番前にいた指揮者だろう金髪の少年が馬車の方へと振り向く。
「―――“月目”」
驚きの声を上げたのは、アニエスであった。
こちらへと振り返った少年の目には、左右ともに違う“オッドオイ”の特徴を備えた少年の姿があった。珍しいものではあるが、そんな事でいちいち軍人であるアニエスが驚くようなことではない。では何故、そんな驚きの声を上げたのか。それは、ハルケギニアでは月目と呼ばれるその目は不吉とされ、責任ある地位にその姿を見ることはほとんどないためであった。にも関わらず、そのような人物が、特にそう言った偏見が強いこのロマリアで聖歌隊の指揮者を務めるとなれば、その裏を伺いたくなるのは仕方がない。
あるかどうか分からない裏を考え懊悩を抱くアニエスを横目に、アンリエッタは窓から左手を差し出し聖歌隊のもてなしに応える。一歩前に出た代表者だろう指揮者の少年は、アンリエッタのねぎらいに対し、右腕を体の斜めに横切らせ礼を示す。礼を示した少年は、そのまま馬車に歩いて近づいていくと、窓から差し出されたアンリエッタの手を取り、唇をつけた。
下品なところは一切感じられない、優雅で気品が感じられる動作である。
「ようこそロマリアへ女王陛下。ご案内役を申し付けられた、ジュリオ・チェザーレと申します」
アンリエッタは細めた目の奥に輝く冷徹な光で、恭しく頭を下げるジュリオを不自然に思われない程度に観察する。
「……まるで、貴族のような神官ですわね」
「さようでございますか? ご不快に思われたのならば済みません。長い閨A軍人のような生活をしていましたものですので」
顔を上げ、ジュリオは苦笑をアンリエッタへ向ける。ジュリオが顔を上げた時、その時にはもう、アンリエッタの目に冷徹な冷めた光はなくなっていた。アンリエッタはジュリオに対し、少し慌てた調子で手を左右に振ると、申し訳なさそうに眉
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