第十三章 聖国の世界扉
第一話 差し伸ばされる光
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自嘲を含んだ小さな吐息にも似た呟きに反応したアンリエッタに、アニエスは頭を振ると視界を外し窓枠の端に見える後続の馬車を何とはなしに見やる。窓の向こうに、幾つもの馬車の姿があった。アンリエッタたちが乗る馬車の後方を、幾つもの馬車が列を成して進んでいる。それら馬車には、トリステインの政治家や貴族、そして、その護衛や使用人たちが乗っている。一国の王を含むこの集団が、はるばる大洋を超えてまでこのロマリアに来た理由は、ここで行われるある式典に出席するためであった。
その式典の招待状は、丁度士郎たちがティファニアを連れトリステインに戻る頃届いたものであった。せめて一声でも掛けてから出ようとしたアンリエッタだったが、三日もあれば到着出来るガリア上空を通る快速船は、悪化の一途を辿る関係上危険であるため使えず、そのため一週間は掛かってしまう大洋上の航路を使わなければならなかった。しかし、それでも本当はそこまで急ぐ必要はなかった筈であった。式典は今から二十日後に行われる予定であり、士郎と会ってからでも十分に間に合う余裕はあった。にも関わらず、アンリエッタがこんなにも早くロマリアへと来たのにはとある理由があった。そのため、泣く泣く士郎たちが帰る前にトリステインを出たアンリエッタは、結局士郎たちとは会えず終いであった。
馬車の天上を見上げ、アンリエッタは届けられた招待状の中身を思い返す。
式典が始まる二十日も前にここへ来た理由を。
アンリエッタの清らかな湖のように蒼い瞳に、チリ、と鋭ささえ感じさせる冷たい光りが過ぎった。
届いた招待状には、表向きの式典への招待の文言だけでなく、秘密の会談を望む事も書かれていた。そのことから、アンリエッタは式典が始まる二十日も早くロマリアにやって来たのだ。この真の目的を知っているのは、アンリエッタを含め、現在の所、トリステインで留守をしているマザリーニの他には、アニエスの三人だけである。
背もたれに寄りかかりながら、窓の外へと視線を向けるアンリエッタ。
真っ白な石壁に沿うように石畳の上を進む馬車は、何時の間にか太い大通りを進んでおり、アンリエッタの視界に目的地が映る。大きな六本の塔。上空から見れば五芒星の形に配置されているその中央には、一際巨大な塔が建っている。魔法学院を建てる際、モチーフにされたそこが、今回の目的地であり、ハルケギニア最大宗派の頂点が住まう―――。
「―――ロマリア大聖堂」
トリステイン魔法学院のモチーフになっているだけあって、よく似ているが、その大きさは比べ物にならないだろう。軽く見積もっても五割は確実に魔法学院よりも大きい。白いお仕着せを着た衛兵たちに囲まれながら、立派な門をアンリエッタが乗る馬車が通過する。馬車が停まると、周囲を取り囲む衛兵たち
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