第十三章 聖国の世界扉
第一話 差し伸ばされる光
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行われた会議において冷徹な手腕を持って様々な利益をトリステインにもたらし、“氷の女王”と呼ばれるようになった彼女が、唯一年相応の少女のように心を動かされる男である。
エミヤシロウ。
いや、今はエミヤ・シュヴァリエ・ド・シロウであるが、今をもっても信じられない男である。魔法学院の一人の生徒の使い魔でありながら、尋常ならざる功績を打ち立てた事から貴族に召し上げられた男。彼の功績はそれこそ幾つもあるが、貴族に召し上げられる切っ掛けとなった功績はもはや人が成し得るものではなかった。
七万の軍勢を打ち倒す。
有り得ない。
絵物語でもこれほど荒唐無稽な話はない。
だが、それは事実なのである。
アニエスはその事を良く知っていた。彼が貴族になると話をアンリエッタから事前に聞かされたアニエスは、自分なりに徹底的に調べてみたからだ。
だがその結果はと言えば、一言で言えば『分からない』、だった。
いくら調べてみても全くの不明であったからだ。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔として召喚される前に一体彼が何処にいたのか、いくら調べてみても全く分からなかったのだ。そう、全く分からなかった。あれだけの力を持った人物である。例え表の人物でなくとも、噂話程度でも耳に聞こえて来ても何らおかしくはない。
しかし、全くの不明。
まるで、別の世界から突然現れたかのように、彼の情報は欠片も手に入ることはなかった。
有り得ないな。
思い浮かんだ考えを振り払いながら、アニエスは窓越しに見える光景に視線を向ける。
窓の向こうには、聖獣であるユニコーンの背に跨り、白いローブを羽織った騎士隊の姿があった。彼らは国賓であるアンリエッタ達一行の護衛である。武器の携帯が禁止である宗教都市ロマリアに入るため、本来の護衛である筈のアニエスたち近衛隊の武器は今は馬車に積んだ行李の中にあった。そのため、ロマリアから用意された護衛が彼らである。
ロマリア聖堂騎士団―――“始祖が手を広げたかたち”のシンボルが刻まれた銀の聖具と、ローブを身に着けた彼らは、武装が禁じられたこの宗教都市で唯一武装が許された集団であり、ロマリアの中でも精鋭中の精鋭たる騎士団でもあった。その忠誠心は、教皇と信仰のためならば、文字通り“死ぬまで戦う”ことを恐れない程だ。死ぬことを恐れない者がどれほど危険で厄介な存在かは誰にでも分かる。彼らと敵対する事の恐ろしさは誰もが知っていた。
そんな騎士団が護衛なのだ、心配する必要など……。
「……新教徒のわたしの命を、彼らが守るとは思えないが、な」
「何か?」
「いえ、何でもありません」
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