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剣の丘に花は咲く 
第十三章 聖国の世界扉
第一話 差し伸ばされる光
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対の声を上げる。

「心外ですわね。本当にそう思っているのですが」
「っ、そ、そもそもわたくしはこのようなドレスではなく、鎧を身に付け、剣を、指揮杖を振るうのが本業です。こんな格好……明らかにわたしの扱いを間違っています」

 自分の服装を見下ろして渋い顔をするアニエスに、アンリエッタは頬に手を当て困った顔をする。

「確かに今まではそれで十分でした。しかし、これからはそれだけでは足りません。何もかも足りていない現状、特に人材不足は深刻です。借りられるものなら猫の手でも必要な程ですから。あなたには何時までも剣や指揮杖だけを振るってもらているだけでは困りますのよ。近衛隊長の仕事は戦うだけではなく、時には他国の王族や貴族を相手にすることもあるのですから。そのうちあなたにもしてもらう事になるのですから、今のうちに最低限必要な教養を身につけてもらいますよ。今回はその練習にもってこいではありませんか」
「人手不足は理解していますが……今回は相手が相手です。わたしよりもマザリーニ枢機卿がお供すべきだったかと愚考しますが……」

 アニエスの言葉に、困ったようにアンリエッタは苦笑を浮かべた。

「確かにその通りなのですが……残念なことに、彼の他に留守を任せられる方がいませんので」
「そう、ですね……」

 ため息混じりの声に、アニエスも顔を歪めながら頷いてみせる。
 人材不足なのだ。
 能力だけで言えばいないことはないのだが、信頼できる者が余りにも少ないのだ。誰も彼もが、この少女王を利用して私腹を蓄える事ばかり考えており、少しでも気を許せば骨までしゃぶられてしまうため、何時も気を張っておかなければならない。
 アニエスは刃のように鋭い視線の中、微かに憐憫を込め目の前に座る自らの主を仰ぐ。

 おやつれになられた……一体何時になればこの方が心から安らげる日は来るのか……。

 一国の王。主君に対し過分な想いを抱いていると自覚しながらも、それでも振り払えない想いを胸に秘め、アニエスは微かに目を伏せる。
 王とは言え、まだ十七の少女である。友達と遊び、気になる男子との触れ合いに一喜一憂していても何ら可笑しくはない。しかし、彼女にはそれが許されない。彼女はハルケギニアでも有数の歴史を誇る一国の王なのだから。甘く浮ついていることなど出来はしない。特に周りに頼れる人がいない現状、気を抜ける暇さえないのだ。このままでは、例え結婚したとしても、その相手が気を許せる者とは言えないかもしれない。
 暗くなる思考の中、ふとポツリと、暗闇に灯る光のようにある男の姿がアニエスの脳裏に浮かぶ。

 ……エミヤ……シロウ、か。

 油断ならない男である。しかし、彼の話をしている時にだけ、アニエスの主は年相応の少女の顔になっていた。アルビオン戦後に
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