第十三章 聖国の世界扉
第一話 差し伸ばされる光
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めるアンリエッタの目に、一瞬目の前の光景とは別の映像が映る。
それは、何処かの戦場だろうか? 家か何かだったのか、砕けた破片が焼け焦げた大地に無数に散らばる中、天を仰ぎ立ち尽くす男の背中が見える。逞しい男の背が……まるで揺らめく陽炎のように、今にも消え入りそうなほど儚げに見え―――。
―――ッ!
膝が砕け、折れそうになる足に力を込めながら、アンリエッタは一瞬、目を強く硬く瞑った。直ぐに開いた目の先では、アンリエッタの様子に気付かず話を続けているヴィットーリオの姿がある。
「―――何故、このようなことが起きてしまうのか? 最も信仰に厚い者である筈の神官たち信仰が地に落ちたのは何故か? 神の忠実な下僕である筈が、自分の欲望のために神を利用するようになったのは何故か?」
泣いているように、懺悔するように震える声を上げながら、ヴィットーリオは、広げた両の手の拳を強く握り締めた。ブルブルと震えるその拳の姿が、彼がどれ程の怒りを感じているのかを示しているかのようだ。何かに耐えるように、歯を噛み締め顔を強ばらせたヴィットーリオが、アンリエッタに向き直ると、わななく唇から震える声を押し出した。
「力―――そう、力がないからなのです」
「……力、ですか」
「そう、力なのです。以前、あなたにお会いした時にも伝えましたね。我らの信仰の力で、驕りと欲望に濁った指導者たちの目を晴らさなければなりません。人間同士の政争や戦に明け暮れる貴族や神官たちに、神の力を、神の奇跡を見せつけるのです」
鳥が羽ばたこうとするかのように両腕を広げた先、硬く握り締められていた拳を解いた、ヴィットーリオが、アンリエッタを強い決意に満ちた目で見下ろす。その目に宿る力と、意志に、アンリエッタは時間が近づいていると知る。
あの時の返事を返す時が。
答えは決まっている。
だが、その前に、確認しなければならないことがある。
「……“神の奇跡”ですか。聖下からの手紙の末尾に、そのような事が書かれていましたが、それは……」
問いにヴィットーリオは答えず、アンリエッタに背中を向け歩き出すと、一つの本棚の前に立った。そして唐突に、何やらふんっ! やら、とうっ! 等と顔に似合わない掛け声を上げながら本棚を動かそうとし始めるが、本棚はビクともしない。アンリエッタが反応に困っていると、ジュリオがヴィットーリオに近づいていった。
「聖下。お手伝いしましょう」
「ええありがとうございますジュリオ。助かりました。一人で出来るものと思っていましたが、やはりそう上手くは出来ませんでした」
「全く、何でも一人でやろうとするのは止してくださいと言っているではありませんか」
二人は笑いながら本棚に手を掛けると、同時に力を込め本棚を動かし始めた。先程ま
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